FIREに対する違和感をきっかけに
投資をめぐる2021年の奇妙なキーワードのひとつは、
“FIRE(Financial Independence and Retire Early)”だろうか。
たしか今年の春頃からよく目にするようになった。
しかしそこには「株式への長期投資で必ず資産を殖やすことができる」
という幻想が込められていないだろうか?
その幻想の前提は「人間社会が継続的に進歩していく」ことであり、
それは「進化論の曲解」からはじまっているのではないか?
- 真の進歩は不条理な苦痛の減殺とともに/市井三郎「歴史の進歩とはなにか」(21/04/08)
- 長期投資の前提にある進化論の曲解(21/05/10)
そして資本主義は今までどおり続いていくのか?
- ブランコ・ミラノヴィッチ「資本主義だけ残った」(21/07/29)
というような探求を楽しんだ。
またFIRE達成者の具体例として、投資歴10年程度の方も登場するのが気にかかる。
株価の暴落(2020年春は急回復したので対象外)や、長期低迷を経験せず、
上昇相場しか知らないまま、早期リタイアを選択していいのだろうか?
そんな疑問がリーマン・ショックを振り返るきっかけを与えてくれた。
- 2008年の金融危機は世界をどう変えたのか?/アダム・トゥーズ「暴落」(21/07/06)
この本が今年一番印象に残った一冊かもしれない。
ちなみに私自身は30代前半にFIREを実践するも挫折し、
半隠居的な白楽天流の「中隠」をよしとする生き方に路線変更している。
古典読書の数珠つなぎ
禅から遊へ
今年の読んだり読み直したりした古典を振り返ると、
- 夢窓国師の幸福論/夢中問答集・第1~5段(21/02/25)
- 夢窓国師の世界を読み解く方法/「夢中問答集」25~29段を中心に(21/03/02)
夢中問答集は入門書を購入したのをきっかけに再読。
難解な箇所も多いが、手に取るたびに発見のある一冊。
そして捨てること、手放すことの大切さを説いた古典繋がりで、
「捨聖」とも称された、踊り念仏の一遍上人の語録も読み直したりした。
- 念仏の心がまえ?そんなものはない!「一遍上人語録」(21/04/26)
今年、初めて読んだ、セネカ「怒りについて」は、
- 怒りの源は無知か傲慢/セネカ「怒りについて」(21/03/28)
と指摘しているし、善悪の境界を引いたところでロクなことにならない。
迷いかけたら、とにかく捨てて、思うがままに進むのが吉。
思うがままに生きるために重要なのは、もちろん「遊」の心。
そうなると「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」の再読へと立ち返る。
- ホイジンガ「ホモ・ルーデンス」を要約・編集(21/05/01)
今回の再読でオルテガ「大衆の反逆」との関連にも気が付くことができ、
またNHK「100分de名著」のおかげで、ル・ボン「群集心理」も初めて読んだ。
- ル・ボン「群集心理」は、人間の条件、大衆の反逆の源流。(21/09/13)
資本主義の未来を考えるために
先のブランコ・ミラノヴィッチ「資本主義だけ残った」を起点に、
民主制と独裁制の対比を描いた、ヘロドトス「歴史」の再読へ。
- 民主制、寡頭制、独裁制。理想の統治体制はどれだ?/ヘロドトス「歴史」(21/10/24)
- 今なお続く「民主制vs独裁制」の原点/ヘロドトス「歴史」(21/10/29)
ヘロドトスと言えば、富と幸福を描いた一節を外すことはできず、
- 幸運と幸福の違いとは?/ヘロドトス「歴史」(21/10/22)
そこから「ニコマコス倫理学」と結びつき、アリストテレスの貨幣論にも出会った。
- クロイソス×ソロン問答へのアリストテレスの反論(ニコマコス倫理学)(21/11/03)
- 貨幣に正義を見たアリストテレス(ニコマコス倫理学)(21/11/04)
古典は自らの思考の歪みを映す鏡か?
最後に幾度も読み返している愛読書「徒然草」。
古典は読み手の現在地に合わせて、見せる表情を変えることがある。
- 徒然草・最終段に込められた意味(21/08/28)
道に迷っている時、古典は新たな考えを与えてくれる存在だが、
迷いがなくなると、自らの考えの裏付けに使ってしまうのだろうか。
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