ヘロドトス「歴史」を読み直している。
読み進めていくと一番最初に出会う読みどころはやはり、
クロイソスとソロンの問答。※岩波文庫・上巻のP31~
権力の絶頂にあったリュディア王クロイソスは、
ギリシアの賢人ソロンに、自らの富を見せびらかした上で、
この世で最も幸福な人物は誰か?と問いかける。
ソロンの回答からポイントとなる部分を抜き出すと、
「クロイソス王よ、あなたは私に人間の運命ということについてお訊ねでこざいますが、私は神と申すものが嫉み深く、人間を困らすことのお好きなのをよく承知いたしております。人間は長い期間の間には、いろいろと見たくないものでも見ねばならず、遭いたくないことにも遭わねばなりません。」
「あなたが莫大な富をお持ちになり、多数の民を統べる王であられることは、私にもよく判っております。しかしながら今お訊ねのことについては、あなたが結構な生涯を終えられたことを承知いたすまでは、私としましてはまだ何も申し上げられません。どれほど富裕な者であろうとも、万事結構ずくめで一生を終える運に恵まれませぬ限り、その日暮らしの者より幸福であるとは決して申せません。腐るほど金があっても不幸な者もおれば、富はなくとも良き運に恵まれる者もまた沢山おります。」
「体に欠陥もなく、病を知らず、不幸な目にも遭わず、よい子に恵まれ、容姿も美しい…その上更に良い往生が遂げられたならば、その者こそあなたの求めておいでになる人物、幸福な人間と呼ぶに値する人物でございます。人間死ぬまでは、幸運な人とは呼んでも幸福な人と申すのは差し控えねばなりません。」
「いかなる事柄についても、それがどのようになってゆくのか、その結末を見極めるのが肝心でございます。神様に幸福を垣間見させてもらった末、一転して奈落に突き落とされた人間はいくらでもございますから。」
この問答の後、クロイソス王の運命は反転。
アケメネス朝ペルシアとの戦いに敗れ、リュディア王国は滅亡する。
自分の人生の幸福・不幸を判断することはできない。
それは人生を終えた後に、他の誰かが評価すべき話であり、
生きている間に奢ったり、思い悩んだりするのは見当違い。
いかなる状況の時に読んでも共感できる名文だ。
ちなみに貨幣史においては、歴史上初めて硬貨を作ったのがクロイソス。
しかし、リュディア王国では金貨よりも金そのものを重視していた。
(ヘロドトス「歴史」の記述からもそれが読み取れる)
リュディア王国を滅ぼしたペルシア帝国が貨幣を受け継ぎ、
その流通を広めていったことが、後にローマ帝国の貨幣制度の礎となる。
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