東京芸大・美術館館長の秋元雄史教授の講演を聞いてきた。
「一目置かれる知的教養 日本美術鑑賞」の出版記念だ。
これまでは和歌や古典を中心に日本の美意識を追ってきたが、
この本との出会いを機に、美術品の勉強をしていきたいと思う。
西洋美術と日本美術の比較についてまとめておく。
継承の美術
- 西洋美術は既存の芸術を壊すことで新しい価値を生み出す「革命の歴史」
- 日本美術は伝統的な技術・考え方の継承が重んじられる「継承の歴史」
作家の個性よりも様式(狩野派や琳派など)が評価の対象となってきたが、
最近になって伊藤若冲のような個性的な画家が評価されるようになった。
日本人の物の見方が変わった証と言えるかもしれない。
芸術に革命がないから時代遅れということではなく、
運慶の金剛力士像(1203年)はミケランジェロのダビデ像(1504年)より早く、
長谷川等伯の松林図屏風(1592年)は印象派よりも早いという例もある。
生活を彩る装飾品としての美術
- ルネサンス以降の西洋絵画は「一枚の絵」として独立して鑑賞される
- 日本美術は日用品の装飾に近い形で鑑賞される
絵画・彫刻を世界を映す鏡(写実重視)として特別扱いする西洋美術と、
絵画・彫刻とデザイン・工芸を融合させる日本美術との違い。
空間の連続性を好む
また一枚の絵に収まらない描き方の例として「風神雷神図屏風」。
雷神の太鼓が画面の上端ではみ出し、空が絵の外にまで続くように見える。
このような空間の連続性を好む描き方は「源氏物語絵巻」にも見られる。
屋根も天井も取り外し、部屋の中を見下ろすように描かれ、
建築の内と外の境界が曖昧で、空間を連続したものとして捉えている。
絵巻そのものが連続した空間で展開される物語を描いている。
自然を題材にした美術
- 画家のパトロンが教会だった西洋美術は宗教的な主題を含む歴史画を重視
- 日本美術は季節ごとの動植物の情景が主要なテーマ
すべてのものは神が創ったとされる西洋とは異なり、
日本人は自らを自然の一部と考え、すべての理は自然の中にあると考えた。
また風景画を描くようになったのは中国の影響だが、
- 中国の風景画は宇宙の真理に迫ろうと自然の迫力を描く
- 日本の風景画は目に見える風景に作者の心象を重ねることを重視した
画材の違い
- 西洋画は分厚い麻布に濃度の高い「油絵の具」を塗り重ねて描く
- 日本画は薄い絹や紙に「岩絵の具」で染色するように描く
絹本では裏側からの彩色や箔を貼る等の表現も可能で、
伊藤若冲の「動植綵絵」が鮮やかなのは絹本ならではと言える。
ちなみに絹本は湿度管理が難しく、乾燥したヨーロッパでの展示は大変。
本に謎めいたサインいただいた。
ちなみに秋元氏は2007年から10年間、金沢21世紀美術館館長を務めており、
金沢を紹介したこの本は以前、金沢旅行の予習に役立った。
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