物理学で現代社会を読み解く/長沼伸一郎「現代経済学の直観的方法」

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緊急事態宣言下の4月上旬に出版された、

長沼伸一郎現代経済学の直観的方法

この本は電子書籍ではなく紙で読みたくなったのだが、
なかなか手に入れることができず、ようやく読み終えた。

経済学の本質が直観的に分かるように描かれており、
一度読めば忘れなさそうだから、経済を学ぶ基礎となるはず。

とくに興味深かったのが、最終章で物理学の観点から、
現代社会を読み解いている部分で、以下にまとめておくと…。

縮退が富を生む

統計だけを見れば世界経済は間違いなく繁栄しているが、
実はGoogleやAmazonなど一握りの巨大企業が栄えているだけ。
著者はこの状態を次のように表現する。

「経済が巨大企業に「縮退」している。」

縮退とは何か?

それは天体がブラックホールになる過程で、恒星の中心部が固着して温度調節機能が麻痺し、
熱が際限なく中心部に溜まってしまう状態を指している。

なるほど金融市場で実体経済の100倍ものマネーが回る現状をよく表している。

また希少性の高い状態からの低い状態に移行する際、エネルギーが引き出される。
(燃料が燃やす前は貴重品だが、これが燃えかすとなることでエネルギーが生まれる)
このエントロピー増大の法則は現代社会にも当てはまる。

つまり、多くの企業のバランスがとれた希少性の高い状態から、
寡占化が進んだ希少性の低い状態に社会が縮退することで富が生まれている。

しかし問題は巨大企業と弱小企業との競争の間だけではなく、
人間の長期的願望(理想)と短期的願望(欲望)の間でも生じている。
社会の中で短期的願望が増大することもまた縮退に該当する。

「現代社会の富は、単に巨大企業自身が活発化しているというより、昔の時代からの伝統や習慣で長期的に整っていた社会生活のシステムが壊れて縮退する過程でしばしば生まれており、むしろ後者がメインとなって経済社会では富が引き出されている。」

天体力学が錯覚を生み出した

なぜ私たちは短期的願望を求めて突き進んでしまったのか?

「現代の資本主義社会では、「大勢の短期的願望(部分)を集めれば、長期的願望(全体)と一致する」ということが一種の教義になっている。」

この「部分の総和が全体に一致する」という仮定が問題で、
この考え方は特殊な条件下でのみ成り立つ天体力学に由来する。

「太陽系の場合には、太陽の引力だけが圧倒的に大きくて、各惑星同士の引力はそれに比べればほとんど無視できるという特殊な条件に恵まれているからである。そしてそういう場合に限り、太陽と各惑星の2個だけからなる問題にばらばらに分解して個別にその軌道を求め、最後にそれらを全部集めて太陽系全体を表現する、ということが可能なのである。」

これを人間社会にも適用できると思い込んでしまったことが原因。

経済社会に縮退を止められる力はあるのか?

「一旦縮退状態に陥ってしまったものは、そこからゆっくり回復するより、むしろ全体が一種の大破局でリセットされて、更地から再出発していることが多い。」

ここでいう大破局とは、他の分野に置き換えれば、

  • 巨大化の極限に達した恐竜が隕石落下で滅びて哺乳類の発展がはじまる
  • 古い巨木だけが茂った森林を山火事が焼き払うことで若い苗木が育つ
2008年のリーマン・ショックも資本主義をリセットする力はなく、
もちろん今回のCOVID-19にもその力はないだろう。

それでは著者の提示する処方箋は何か? それは読んでからのお楽しみ。

>>>つづく
現代経済学の直観的方法
講談社
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