ブランコ・ミラノヴィッチ「資本主義だけ残った」

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ブランコ・ミラノヴィッチ「資本主義だけ残った」を読了。

この本の要点となる2つの資本主義のかたちについては、

  • リベラル能力資本主義(アメリカ)
  • 政治的資本主義(中国)

すでに著者の別の論文から、まるっとまとめてしまっているので、
まずは本書に書かれている今後の展望のみまとめておく。

資本主義をめぐる今後の展望

リベラル能力資本主義がこのまま進むと、政治的資本主義に似通う可能性があり、
そうでないシナリオとしては、民衆資本主義と呼ぶ段階に移行できるかどうか。

著者が民衆資本主義と呼ぶ社会システムの特徴は、

  • 資本所得および富の所有の集中がより少なく、
  • 所得の不平等がより縮小し、
  • 世代間の所得の移動性が高くなり、
  • 永続的なエリート層の形成を防ぐ

これが実現できないとなると、第一次世界大戦の悪夢が蘇る。

「最終的に戦争を引き起こすことになったヨーロッパの帝国主義がそもそも台頭したのは、グローバル資本主義が生んだ国内の所得と富における高い不平等のせいだった。」

第一次世界大戦が何よりも否定したのは、資本主義は国家間に強力な経済的相互依存関係を築くがゆえに平和を必要とするといった主張かもしれない。」

続けて以下に本書で目に留まった記述を抜き出して編集した。

金持ち同士の結婚が格差を広げる

かつては夫が金持ちであるほど、妻が働いて自分の稼ぎを得る可能性は低かったが、
現在は高学歴・高収入同士の男女が結婚し、二人とも稼ぎ続ける時代になった。
それが格差拡大の要因の1つとして、統計からも確認できることには驚いた。

「1967年から2007年までにアメリカで発生した不平等の拡大の約3分の1は、釣り合った結婚によって説明できる。OECD加盟国では、釣り合った結婚が、1980年代初頭から2000年代初頭までに拡大した不平等の平均11%の原因とされている。」

そしてこうした結婚の形が、その子どもの教育費の格差にもつながり、
世代間で優位性が受け継がれ、格差がさらに広がっていくことになる。
だから相続税など富裕層に対する増税により、公教育の予算を増やすべきだと。

資本所得と労働所得のジニ係数

35ページの「図2-2 資本所得と労働所得の不平等」で、
先進国の中で日本の資本所得のジニ係数が突出して高くなっている。

なんか実感と違うので、出典元のデータを自分でいじってみたが、
同じような散布図を作れることができず、なんだかよく分からなくなった。

とはいえ資本所得の格差があることは明確であり、
中間層を対象に金融資産へのアクセスに税制上の優遇措置を設けるべき

この著者の提言にふと気が付いたが、
日本のiDeCoやNISAはまさにこのための制度と言えるのでは?

倫理的には後退しているが、資本主義の代わりはない

今日の宗教は、正しい経済行動とは何か、語ることはなく、
またグローバル化により、個人が社会的環境とのつながりを失いつつあり、
個々人の行動が周囲の人間から監視されなくなっている。

こうして自制や抑制といった内的な制約が機能しなくなり、
規則や法律といった外部からの制約に置き換わっていった

「倫理ないし道徳に反した新たな行動を罰するためにどんな法律を導入したところで、その裏をかく術を見つけた者に、決まって先を越されるはずだ。」

「成功を判断する唯一の基準がお金になると、階層を決める他の指標は消滅するが(それはおおむね良いことだが)、社会はまた「金持ちになるのは栄誉あること」であり、何かしら違法なことをして捕まらない限り、その栄誉を得るためにどんな手を使おうがたいした問題ではないとのメッセージを送ることになる。」

しかし資本主義に代わるものはなく、止めることもできない。

「資本主義に組み込まれた競争的かつ物質欲的精神を捨て去れば、結局は所得が減り、貧困が拡大し、技術進歩が減速ないし逆転し、超商業化資本主義がもたらす他の利点を失うことになるだろう。物質欲的精神を捨て、富を成功の唯一の指標にするのをやめても、こうした利点をあいかわらず享受できるなどと思うのは無理な話だ。」

たとえばある国がグローバルな経済ランキングを気にもかけず、
競争や物質欲を捨てたライフスタイルを追求しようとしたとする。

そうすれば、より豊かになった国から来た人間たちが、
その国の資産を買いあさりはじめ、地元民はすみに追いやられる。
それが現在のグローバル化し商業化された世界の宿命なのだ。

私的領域の商品化が資本主義の極致?

著者は現代社会の特徴として、原子化と商品化をあげる。

  • 原子化…以前は金銭交換の対象でなかった多くのモノやサービスが、市場で手に入れられることで、家庭の経済的な利点が大きく失われ、平均世帯規模が縮小していくこと。
  • 商品化…自由な時間をはじめとする自分の持てるものを最大限に商品化することで人々のニーズを満たそうとすること。

「資本主義の究極の成功とは、誰もが苦痛や快楽、損得の優れた計算機になるように人間の性質を買えることができたときだ。」

「私たちが自ら進んで熱烈なまでに商品化に参加したがる理由は、人々が資本主義社会に長らく順応してきたことで、資本主義的な計算機になってしまったからにほかならない。私たち一人ひとりが資本主義的生産の小規模拠点になり、自分の時間や感情、自分の家族関係に暗黙の価格を付けているのだ。」

この記述を目にしてピンときたのが、ハンナ・アレント人間の条件
1958年に懸念された未来が、いよいよ具現化されてきたということかな。

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