危機の時は“Foreign Affairs”の別冊アンソロジー
東アジアの地政学について学んでいて、あ!と思い出して購入したのが、
“Foreign Affairs”の別冊アンソロジー「パンデミック後の世界にどう備えるか」。
“Foreign Affairs”は、アメリカの外交問題評議会が発行する、
外交や国際政治・経済に関する論文をまとめた雑誌。
たしかこれと出会ったきっかけは高校生の頃。
社会科系の成績が抜群に良かったが、英語が嫌いだった私に、
先生が勧めてくれたのが2冊の英語誌だったように記憶している。
- The Economist
- Foreign Affairs
結局、英語は苦手なままで、“Foreign Affairs”も日本語で読んでいるが(笑)
“Foreign Affairs”は定期購読しているわけではないが、
注目論文をまとめた別冊アンソロジーが不定期で発行されていて、
2008年の金融危機、東日本大震災後のエネルギー問題、
といった大事件が起きたタイミングで購入して読んでいる。
マジックマネーの時代
今回の論文集でまず気になったのが、
セバスチャン・マクラビー「マジックマネーの時代」。
2008年の金融危機以降、インフレが抑え込まれ、低金利が続いている。
さらには中央銀行が量的緩和の一環として、国債を購入しているため、
政府は財政赤字を恐れることなく景気刺激策を実行可能になった。
- インフレになったらどうするのか?
- なぜインフレにならなくなったのか?
- インフレのサイクルはいつ戻ってくるのか?
誰も確信のある答えを見つけられないまま続く、際限のない歳出。
この状況を「マジックマネー」と評しているところが言い得て妙だ。
ヴォルフガング・シュトレークが指摘した、1970年代から続く、
「時間かせぎの資本主義」がいつまで成り立つのか?という疑問と同じ。
「国債の長期金利を抑え込めば、株式その他の価格が押し上げられ、企業は資本を調達して投資しやすくなる。だがこれは、金融資産の保有者、つまり、公的資金で援助するにふさわしいとはいえない人々に補助金を与えているようなものだ。」
資本主義の衝突
ここでもう一つの収録論文、ブランコ・ミラノヴィッチ「資本主義の衝突」。
先月発売された、同じ著者の「資本主義だけが残った」も読まなければ…。
著者は現代の資本主義は2つのモデルが影響力を持っていると指摘。
(キリスト教が東西に、イスラム教がスンニ派とシーア派に分裂したのと同じと説く)
- リベラル能力資本主義(西ヨーロッパ、北米、インド、インドネシア、日本)
- 政治的資本主義(中国、ミャンマー、シンガポール、ベトナム、アゼルバイジャン、ロシア、アルジェリア、エチオピア、ルワンダ)
リベラル能力資本主義は、生産能力を民間が所有し、才能が評価され、
教育の無償化や相続税などを通じて機会の保証が試みられている。
しかし近年、超富裕層の出現と格差の拡大に直面している。
「勤労ではなく、所有することで富が作り出された19世紀の古典的資本主義と違って、リベラルな資本主義の富裕層は、資本所得と労働所得の双方から、別の言い方をすれば、投資と勤労の双方から大きな所得を得ている。」
ちょうど先の「マジックマネー」の副作用という側面もあるだろう。
拡大する格差の問題にうまく対処できなければ、
リベラル能力資本主義は政治的資本主義に近づいていくと指摘。
- 個人の政治的な権利と市民権は制限される社会
- 統治の正当性の維持のため経済的成長が不可欠
- 国家官僚の圧倒的権力と法の支配の欠如
という特徴を持つ政治的資本主義にも問題はあり、
政治腐敗が蔓延しがちで、大衆の不満が高まることが多い。
そしてこの話は次の収録論文「デジタル独裁国家の夜明け」に連動する。
デジタル独裁国家の夜明け
アンドレア・ケンドル・テイラー、エリカ・フランツ、ジョセフ・ライトによる論文
「デジタル独裁国家の夜明け」では、
テクノロジーが独裁体制もらたした恩恵を数字で表しているのが興味深い。
「戦後からデジタルツールが拡散しはじめた2000年までの約半世紀において、典型的な独裁体制の寿命は10年程度だったが、2000年以降、この数字は倍以上の25年近くに延びている。」
「2000~17年に、1年以上続いた91の独裁体制のうち37が崩壊している。崩壊を逃れた権威主義体制は、崩壊した体制よりもデジタル抑圧を多用していた。」
またアメリカ発の論文なので、アメリカがAI分野をリードすることが重要と説く。
民主主義と人権尊重に即したテクノロジーの規範をアメリカが作るべきと。
アンソロジーはこのように、多くの著者の論文やコラムを、
自分で勝手に数珠つなぎにして読み進めることができて楽しい。
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