今年の春に亡くなった詩人、長田弘。
食にまつわる詩集があるというので手にとった。
あとがきで詩の題材に食を選んだ理由が語られている。
「食卓は、ひとが一期一会を共にする場。そういうおもいが、いつもずっと胸にある。食卓につくことは、じぶんの人生の席につくこと。ひとがじぶんの日々にもつ人生のテーブルが、食卓だ。かんがえてみれば、人生はつまるところ、誰と食卓を共にするかということではないだろうか。・・・詩という言葉の料理をとおして、歯ごたえのある日々の悦びを食卓に送れたら、とねがう。言葉と料理は、いつでも一緒だった。料理は人間の言葉、そして言葉は人間の食べものなのだ。」
和食は儀式料理の発達とともに形づくられた。
古代の神饌料理は神と人とが食を通じて心を同じくするため。
茶道から生まれた懐石料理は主客の想いを一つにするため。
和食には時代を超えて「共食」の思想があり、
すなわちそれは「一期一会は食卓にあり」ということだ。
数ある詩の中から一番気に入ったものをメモ。
食べもののなかにはね、
世界があるんだ。
一つ一つの食べもののなかに
一つ一つの生きられた国がある。チョコレートのなかに国があるし、
パンにはパンの種類だけの国がある。
真っ赤なビートのスープのなかには
真っ赤に血を流した国がある。味があって匂いがあって、物語がある。
それが世界なので、世界は
食べものでできていて、そこには
胃の腑をもった人びとが住んでるんだ。テーブルのうえに世界があるんだ。
やたらと線のひかれた地図のなかにじゃない。
きみたちはきょう何を食べましたか?
どこへどんな旅をしましたか?
詩人とは易しい言葉で深遠な世界を語る人だったな。
と改めて認識させられる詩集だった。
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