価値(企業価値)と価格(株価)の差異に探すのが投資家の営みだから、
「価値とは何か?」についての哲学的な考察を追い求めている。
今回たまたま、森博嗣「お金の減らし方」の中にそれを見つけた。
この本を手に取ったのは、2024年上半期に急激な円安が進み、
ドル資産を円建てにすると異様な増え方をしたことで、
お金の増やし方よりも、減らし方に関心を寄せていたから。
本書は「お金の増やし方」についての執筆依頼を受けて、
逆に「お金の減らし方」と題して「お金の使い方」を論じた一冊。
著者の主張をものすごく簡単にまとめると、
- 世間体に囚われた必要なものにお金を使ってはならない。
- 自分が欲しいもの、自分にとって価値のあるものを得るためにお金を使いなさい。
- それが他者の評価に依存せず、自分の価値を見つける方法だ。
具体的な記述として、まずは価値と価格について。
「値段が定められた商品を買わされている側の人たちは、価値というのは、すなわち値段だ、という意識を持ちやすい。・・・値段がすなわち価値だ、という安直な認識に長く浸かっていると、高価なものは価値がある、高価なものを持っていれば周囲から尊敬される、というような歪んだ価値観ヘシフトしてしまうかもしれない。何が間違っているのかといえば、自分の欲しいものがわからない人間になっている、という点である。簡単にいえば、自分の人生を見失っていることに等しいだろう。」P50
株式市場は美人投票と言われるように、
株価が上がっている企業に投資する価値があるとされる。
でも自らの投資哲学を持たないまま乗っかるだけでは、
長い目で見て資産形成に成功するかどうか疑問だ。
そしてお金の価値ある使い方とはいかなるものか。
「お金は、目的ではない。お金を得ることが目的であるわけではない。目的を達成するための手段として、お金があるのである。・・・お金を、自分が欲しいもの、やりたいことと交換しなければ、価値は生まれない。お金を失うことで、価値が得られるのだ。」P55
「お金というのは、自分の未来の可能性を考えるツールの一つだ、と捉えるのが、最も近いように僕は思っている。」P81
お金自体に価値があるという価値観に囚われているうちは、
社会の常識・習慣や世間体のために浪費してしまうだろう。
他者からの評価を自分の目標や夢にしてはならない。
お金の使い方を通じて、自分を取り戻せ!と著者は説く。
「できるかぎり、他者に依存しないものを、自分の人生の目標とすることを、是非おすすめしたい。これは、多くの人にとって、非常に難しい条件かもしれないが、本来それが本当の夢というものである、と僕は考えている。」P183
「価値は、欲しいもの、やりたいこと、という物体や行為自体にあるのではなく、それを手に取ったとき、それをやっているときの自分に生じるもの、と考えた方が適切である。同時に、それによって自分が高まれば、価値はさらに大きくなる。」P198
世間の評価を気にせず生きることの大切さは、
古典においてもたびたび説かれ続けている。
- 世間の評価はどうでもいい/徒然草38段(17/07/11)
- 評判の気にしすぎに道元が物申す/正法眼蔵随聞記(20/09/04)
そして現代、社会的な評価や他者との比較は、
ほとんどの場合、お金を基準にしてしまいがちだ。
とくに今年2024年は新NISAに絡んで、お金を増やす話に溢れている。
お金の使い方を通じて、価値ある人生とは何か?
そう考えさせてくれる本書は、今まさに読むべき一冊だ。
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