美意識のありか/芥川喜好「時の余白に 続々」

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みすず書房から出版される翻訳経済書に良書が多い。
たとえばブログで紹介してきた以下の本が該当する。

そんなわけで、いつからかは忘れてしまったが、
みすず書房から新刊案内が届くメールマガジンに登録しており、
気になるものを見かけたら、経済書に限らず手に取るようにしている。

今回なんとなく気になったのが、2006年から2020年の十数年に渡り、
読売新聞に掲載された美術関係のコラム(2015~2020年)を集めた、

シリーズ3冊目の最終巻とのこと。

著者は作家への取材を重ねるうちに、紹介したいと思える作家は、
たまたま時代の波に乗っただけの大物や有名人ではなく、
権威や名誉への志向とは無縁に生きた人になっていったという。

こうした作家の美意識に触れるなかで、
著者は世間一般の美意識の崩壊を危惧している。
それが現れた以下のような一節が印象深かった。

「現代の社会には、勝つことの価値が異常に肥大化した一面があります。・・・世は骨の髄までコマーシャリズムが浸透して「名」と「肩書」が絶大な力を持つ構造ができあがっています。」

いいものが売れるのではなく、売れたものがいいものだという、
本質を失った価値観が蔓延した結果、不正にまで手を染めて、
破滅していくという例を目にすることが増えたように思う。

「地道な働きや実績の積み重ねによって評価を得、名が知られるようになるのは、自然の道筋というものだろう。大いに奨励すればよい。だがいま横行するのは、何でもいいから有名になりたいという、むしろ虚名願望というべき欲望のかたちである。目的も使命感もない。あるのは空疎な格好づけと自己顕示のみである。」

「自分で自分のなすべき仕事と決めたことに打ちこんでいる人の姿は美しい。他人の領域に属することを支配しようとする人は、いずれ道を誤り破滅します。」

最後に文化勲章を辞退した熊谷守一(1880~1977)について評した一節。

「自分が特別な存在であることを受け入れなかった精神のあり方にこそ、究極の美意識はあらわれているというべきだろう。」

私がこれまで追いかけてきた言葉だと「数寄者」の精神と同じかな。

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