岡倉天心「茶の本」を「不完全の美」で要約・編集

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不足の美未完の美余白の美。そして引き算の美学

日本文化を語る上で、決して外すことのできないキーワード。
たとえば枯山水庭園は、水を感じることで心の中で完成する。

こうした日本の美意識を「茶道」を起点に語ったのが「茶の本」。
1906年に岡倉天心が英文で世界に発信した世界的な名著だ。

日清・日露戦争(1894、1904年)と日本が帝国主義に走る中、
「本当の日本は違う!」という想いを世界へ伝えたかったのかも。

さて、まえおきはこれくらいにして、
不完全の美」を軸に「茶の本」を要約・編集してみよう。

まずは出だしの1段落目から一文をピックアップ。

It is essentially a worship of the Imperfect, as it is a tender attempt to accomplish something possible in this impossible thing we know as life.

(茶道は本質的に不完全なものへの崇拝であり、人生というこの不可能なもののなかで、何か可能なものを成し遂げようとする繊細な企てである。)

私たちの人生は「はかない」もの。
だからこそ、すべて限りあるこの世に永遠を見立てようとする
幽玄(有限)の中に無限の美を見る、といった感覚が日本の伝統。
茶道も同じく、不完全の美を追求するもの、と天心は宣言している。

そしてこれを茶室を例に詳しく解説している第4章から。

The tea-room (the Sukiya) does not pretend to be other than a mere cottage–a straw hut, as we call it.

・・・It is an Abode of the Unsymmetrical inasmuch as it is consecrated to the worship of the Imperfect, purposely leaving some thing unfinished for the play of the imagination to complete.”

(茶室、すなわち数寄屋は単なる小屋で、それ以上を望むものではない。・・・不完全の美学に捧げられ、故意に未完のままにしておいて、見る者の想像力によって完成させようとするがゆえに「数寄屋」である)

そしてこうした不完全の美学の原点は禅の教えにあると説く。

Since Zennism has become the prevailing mode of thought, the art of the extreme Orient has purposefully avoided the symmetrical as expressing not only completion, but repetition. Uniformity of design was considered fatal to the freshness of imagination. Thus, landscapes, birds, and flowers became the favorite subjects for depiction rather than the human figure, the latter being present in the person of the beholder himself.

(禅が世に広まって以降、日本の美意識は、完成や重複といった左右対称の表現を避けてきた。画一的な意匠は想像力を破壊するものとみなされたから。それゆえに人物よりも花鳥風月が描写の主題として好まれるようになったのだ。人物を描くと見る人が自らを投影してしまうから。)

枯山水庭園の創始者は鎌倉時代の禅僧、夢窓国師と言われるし、
水墨画家として名高い室町時代の雪舟もやはり禅僧。
禅の山水思想が不完全の美を完成させたと言えるだろうね。

True beauty could be discovered only by one who mentally completed the incomplete.

(本当の美しさは、不完全を心の中で完成させた人だけが見出すことができる。)

本当の美しさは、心の中で余白を埋めることで完成する。

秘すれば花なり」と名言を残した世阿弥の能楽論もやはり同じ。
目に見えるものがすべてではなく、大切なものは目に見えない。
人々がめいめいに心の中に咲かせる花が「まことの花」なんだ。

※関連記事…岡倉天心「茶の本」の美文集(12/12/09)

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