エシカル消費よりも寄付の選別に頭を使え!/ウィリアム・マッカスキル「効果的な利他主義宣言!」

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本屋でたまたま手にとった

ウィリアム・マッカスキル「効果的な利他主義宣言! 慈善活動への科学的アプローチ

目次を開いて飛び込んできた文言にビックリ。

第8章 搾取工場の商品を避けるべきでない道義的理由

これは何か凄そうな本だと感じて購入し、一気に読み終えた。

効果的な利他主義とは?

社会にとって善いことをしたい。
こうした想いは時に感情的になりがちで、合理性を欠く。
だから科学的手法で最善の方法を導き出すことが重要と著者は説く。

「効果的な利他主義で肝要なのは、「どうすれば最大限の影響を及ぼせるか?」を問い、客観的な証拠と入念な推論を頼りに、答えを導き出そうとすることだ。・・・何が世界にとって最善なのかを素直で中立的な視点から突き詰め、それがどういう行動であろうと最善の行動だけわ取ると誓うのが「効果的な利他主義」なのだ。」

また富裕層への富の集中ばかりが問題視されているが世界に目を広げれば、

「あなたが年間5万2,000ドル以上を稼いでいるなら、世界的に見ると上位1%に属する。アメリカの平均年収2万8,000ドルを稼いでいるなら上位5%だ。アメリカの貧困ラインである年収1万1,000ドルを下回っているとしても、世界の85%の人々よりは裕福だ。」

よって先進国に生まれたのだから、私一人が何をしても無駄と考えず、
意思さえあれば何千何万という人々の生活を変えられるはずだと著者は言う。

仕事を通じた社会貢献よりも、まずは寄付を考えろ!

ただし誤った行動をすれば、単なる時間とお金の無駄遣いとなってしまう。

著者が強く主張するのは、自らの仕事や消費行動を変えるのではなく、
より吟味された寄付こそが最も社会に貢献する説く。

それにはまず、自らのキャリアの選択を間違えないことが大切。

「あなたが仕事を通じて及ぼす直接的な影響を最大化しようとするのではなくて、もっと多く寄付できるよう稼ぎを増やし、日々の仕事ではなく寄付を通じて人々の生活を向上させようとするのだ。ほとんどの人は「影響力のある」キャリアを選ぼうとする時、この選択肢を検討しない。・・・仕事自体を通じて直接人々の役に立つキャリアだけが最高のキャリアだと決めつける道理はない。本気で世の中のためによいことをしようと思うなら「寄付するために稼ぐ」という道も検討するべきだ。」

大学生からNPOやNGOで働きたいと相談を受けることもあるが、
とくに日本では社会人としてレベルアップが見込める業務は少なく、
もちろん給料は安いので、その後の人生を台無しにするだけだ。
他に仕事を持ち、支援者として非営利団体の活動に参加するのが好ましい。

寄付とエシカル消費。より社会的効果が高いのは?

さて著者が寄付先として最も社会的効果が高い団体としてあげているのが、

ギブダイレクトリー」。

1ドルの寄付金につき90セントをケニアやウガンダの最貧困層の人々に直接送金し、
そのお金を好きなようにつかってもらう、という非常にシンブルな仕組み。

「貧しい人々に直接現金を送金するのではなく、別の慈善プログラムに寄付する価値があるのは、そのプログラムの余分な運営コストを帳消しにするほど大きな見返りが期待できる場合に限られるだろう。言い換えるなら、よほど説得力のある理由でもないかぎり、私たちが勝手にお節介を焼くよりも、貧しい人々自身にお金の使い道を決めてもらうほうが効果的だと考えるべきなのだ。」

アメリカで書かれた書籍らしく投資家にとって分かりやすい例も示されており、
インデックス・ファンドではなく、アクティブ・ファンドに投資する根拠は何か?
と考えれば、効果的な寄付が何かは明らかだろうとの解説も付けられている。

寄付先選別のフレームワーク

本書ではどの団体に寄付すべきか検討のしかたとして、
以下のような段階を踏んで分析する具体的な方法も示している。

  • この慈善団体の活動内容は?
  • 各プログラムの費用対効果は?
  • 各プログラムが有効であることを裏付ける証拠の信憑性は?
  • 各プログラムはどれくらい適切に実施されているか?
  • その慈善団体は追加の資金を必要としているか?

寄付に比べるとエシカル消費の社会的効果は低い

またギブダイレクトリーのプログラムとの比較対象として、
フェアトレードの社会的効果の低さを指摘しており、

「フェアトレードの商品を購入しても、ふつうは世界の最貧困層にはお金が届かない。フェアトレードの基準を満たすのは難しく、一般的に最貧困国の人々にはフェアトレード認証を取得する余裕がない。」

「フェアトレード商品に支払われるお金のうち、最終的に農家の手に渡るのはほんの一部だ。・・・アメリカではフェアトレード・コーヒーがふつうのコーヒーと比べて1ポンドあたり5ドル増しで販売されるが、コーヒー生産者は上乗せ分の8%、つまり1ポンドあたり40セントしか受け取っていない。」

私が注目した見出しの「搾取工場の商品を避けるべきでない道義的理由」は、

「私たちは、自分たちが搾取工場の商品をボイコットすれば、工場は経済的な圧力に負けて廃業し、労働者たちはもっとましな就職先を見つけるだろうと思いこんでいる。しかし、それは正しくない。発展途上国では、搾取工場の仕事はむしろよい仕事なのだ。工場で働けなくなれば、低賃金で肉体を酷使する農業労働、ごみあさり、失業など、ふつうはいっそう劣悪な状況が待ち受けている。」

たしかに私たちは、その工場で働く当の本人たちの事情を知らないまま、
先進国の倫理観で善悪の判断をしてしまっているところがある。
判断ができるだけの知識がないのなら、効果的な寄付の道が最善と言える。

結論

その他にも気候変動や動物愛護についても検証した上で結論はこうだ。

「問題が世界の貧困であれ、気候変動であれ、動物の福祉であれ、どの商品を買うかよりも、どこにいくら寄付するかのほうが、影響という点ではずっと重要なのだ。」

社会に善いことをしたいと願う人なら必読の一冊と言えるだろう。

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