トランプ誕生までの政治的背景/スティーブン・レビツキー&ダニエル・ジブラット「民主主義の死に方」

この記事は約3分で読めます。

トランプ大統領任期中の2018年に出版された、

昨年、トランプ誕生までの思想的背景について学んだが、
こちらはアメリカの政治の仕組みについて。

  • 過激な候補者が大統領選に出馬できないシステム
  • 不文律の規範(相互的寛容と組織的自制心)

この二つの崩壊がトランプ誕生の背景にあると著者は説いている。

過激な候補者が大統領選に出馬できないシステム

アメリカ大統領選挙での党の候補者指名は、
かつては事実上、党の重鎮たちが密室で決定していた。
これが門番として機能し、明らかに不適切な人物が排除されていた。

たとえば国民から熱狂的な支持を受けていた、

  • ヘンリー・フォード(民主党・1924年大統領選)
  • チャールズ・リンドバーグ(共和党・1940年大統領選)

ナチスドイツに支持されるような危険な人物だったため、
両党の幹部達は大統領選の候補者として排除した。

民主的ではない仕組みによって、民主主義が救われていたのだ。

しかし転機は1968年に訪れる。
ベトナム戦争の長期化により、現職のジョンソン大統領(民主党)は不人気。
反戦を掲げるロバート・F・ケネディが予備選挙で勝利するが、直後に暗殺される。
そこで民主党の幹部は、現職の副大統領を候補者として指名。

この判断が国民から大きな批判を受け、門番システムが崩壊。
党の予備選挙に勝利した候補がそのまま、大統領選へ出馬する、
現在のシステムへ移行することになる。

これを受けて当時の政治学者Nelson.W.PolsbyとWidavskyはこう予言した。

「事前選挙によって過激派や大衆扇動家の候補が生まれやすくなる。党への忠誠心をもたない彼らには失うものがなく、兵器に国民の憎悪をかき立て、くだらない約束をするにちがいない。」

不文律の規範(相互的寛容と組織的自制心)

この予言が実現するまでに、約数十年の時間がかかったのは、
不文律の規範がガードレールのような機能を果たしていたからだという。

著者が民主主義が機能する上でとくに重要と指摘するのが、

  • 相互的寛容…政治的な対立相手を敵対視せず、お互いの考えを尊重する
  • 組織的自制心…法律の文言には違反しないものの、明らかにその精神に反する行為を避けようとすること

このあたりは読んでいて、スポーツのフェアプレイ精神と似ているなと。
たとえばサッカーで敵味方を問わず、試合中に怪我をした選手がいたら、
ボールを外に蹴り出して試合を止め、再開するときは相手にボールを返す。
ルールに書いてあるかどうかに関わらず、守るべき慣習として定着している。

本書に話を戻すと、アメリカ政治における相互的寛容と組織的自制心は、
1978年にニュート・ギングリッチが政界に進出した頃からヒビが入り始める。
共和党がライバルを敵、政治を戦争とみなす姿勢を強めていき、
民主党もそれに応酬するようになり、不文律の規範が崩壊をはじめる。
この流れ中で生まれたのがトランプ政権だった。

コメント