紀貫之と六歌仙の物語/周防柳「逢坂の六人」

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この本、私には面白いけど売れるのか?
紀貫之を主人公に六歌仙との交流を描いた物語。
六歌仙とは貫之が古今和歌集の序文「仮名序」で言及した逢坂の六人

  • 在原業平
  • 小野小町
  • 大友黒主
  • 文屋康秀
  • 僧正遍照
  • 喜撰法師

「近き世にその名きこえたる」6人の歌人のこと。
謎の人物とされる喜撰法師の正体には著者独自の見方が付されている。

紀貫之が主人公の小説が出版されるなんて喜ばしい。
1000年以上も昔の古典が残っている国は少なく、
またその古典を今の言葉で理解できる国はほとんどない。
そう考えたとき貫之の歴史上の功績はあまりに大きいから。

古代日本は固有の文字を持たない無文字社会であり、
そこへ弥生~古墳時代に中国からの移民が漢字を日本へ持ち込んだ。
当時の日本人は渡来人の漢字の発音と自分たちの発音をつき合わせ、
漢字一文字に和音をあてて「万葉仮名」を生み出した、とされている。

しかし712年に成立した日本最古の歴史書「古事記」からは、

上古之時、言意並朴、敷文構句、於字即難。已因訓述者、詞不逮心。全以音連者、事趣更長。是以今、或一句之中、交用音訓、或一事之内、全以訓録。

(昔は言葉や心が素朴だったので、文章にすることがとても難しい。漢字を使って述べてみると、恐ろしく文章が長くなってしまう。困ったあげく、この「古事記」は音だけを借りた漢字を混ぜて書くことにしました。また場合によっては、表意文字としての漢字を連ねて書きます。)

と日本語でいかに表現するかままならない状態が読み取れる。
平安時代に入り「万葉仮名」から「仮名文字」が生み出される。

  • 平仮名…万葉仮名で和歌や文章を綴るうちに文字が行書・草書化
  • 片仮名…漢文を音訓読するための記号・符号から派生

そして905~912年に成立した古今和歌集の仮名序」が登場。
これが日本の歴史上、初めて平仮名で書かれた公的な文章だ。

古今和歌集の序文には「仮名序」と「真名序」の2種類が並記され、
漢文調の真名序に対し、貫之の書いた仮名序は平仮名メインの和文。

やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。世の中にある人、ことわざしげきものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて言い出せるなり。花に鳴く鶯、水に住むかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。

(和歌(やまとうた)は人の心から芽ばえた言の葉である。この世に生きていれば、様々な想いが生じるものだから、歌を詠まずにはいられないのだ。鶯や蛙が鳴くのと同じように、人が詠うのは生きることの証といえるだろう。)

ここでついに日本の心を漢文ではなく和文で表す名文が生まれた。
ゆえに紀貫之はただの歌人ではなく日本語の原型を創った偉人といえる。
紀貫之を描いた時代小説がもっと世に出てきたらいいなと思う。

逢坂の六人
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