先月収録したrennyさんとのポッドキャストの中で、
スーザン・ストレンジ(1923~98)の本について触れた。
でも私自身も内容を忘れかかっていたので、この機会に再読した。
2冊の本の内容を簡単に紹介すると、
- カジノ資本主義(1986)…国際金融システムが「カジノ化」し、投機的なマネーゲームが世界経済を牽引していることへの警告
- マッド・マネー(1998)…カジノ化した金融市場がさらに「マッド」(制御不能かつ不合理)な段階に進化していることへの警告
そして「カジノ資本主義」と「マッド・マネー」の出版の間に、
ストレンジの警告を裏付けるような重大な金融危機が複数発生する。
- ブラックマンデー(1987)
- アジア金融危機(1997)
- ロシア金融危機・LTCM破綻(1998)
著者は「マッド・マネー」の刊行直後に亡くなってしまう。
もしリーマン・ショック後に三作目を書いたとしたら、
「カジノ」「マッド」の次はどんなタイトルだったのだろう?
カジノ資本主義
1973年に変動為替相場制に移行してから十数年の間に、
世界の機能を司る基準価格(為替、金利、原油価格等)の変動幅が大きくなった。
これらの不確実性を回避しようと先物取引が開発されたことで、
「西側世界の金融システムは急速に巨大なカジノ以外の何物でもなくなりつつある。」
そしてカジノ化した金融が社会・経済を動かすようになることで、
私たちの人生は「偶然」や「運」に左右されやすくなっていくと危惧。
またそれによって民主主義の土台が揺らぐことも予見していた。
「かつては多様な要因によるものと納得されていた不運が、突然ずっと痛切に感じられ、不平等に対する恨みも深くなる。運によって左右される領域が大きくなりすぎ、システムが非常に恣意的で不平等に運営されているように思われる。こうなると欲求不満や怒りが強まり、いっそう暴力的に表現されるようになる。」
また矛盾が生じているなとあらためて感じさせられたのは、
「人生の不確実性に対して何らかの保証を提供する代わりに、貨幣はそれ自体で新たな不確実性の原因になっている。」
マッド・マネー
「カジノ資本主義」で警告した金融システムが、
「マッド」(制御不能かつ不合理)な段階へ悪化したと警告。
- 実体経済を上回る資金が世界の金融市場を駆け巡り、国家も国際機関も不能に陥っている
- 技術革新が金融革新(デリバティブ等)とグローバル化を加速させ、金融危機の発生リスクを高めている
- マネー・ロンダリングや金融犯罪等、金融業における道徳が低下している
通貨や信用、価格のボラティリティ(変動性)が市場を不安定にし、
さらには人々の所得、貯蓄、職をも揺るがす状況を解決するためには、
- 富の創造を最大化することよりも公平性と安定性の増大を選ぶこと
- 経済成長の量よりも質を重視すること
しかし私達がそれを選ぶ時期が来るとしたら、
「たぶんマネーが本当に、今よりもずっと、もっとマッドでバッドになって初めて、経験によって私たちの選好は変化し、政治が変わることだろう。」
最後に著者からのメッセージで印象的だったものをひとつ。
不確実性が増大した世界で、過去・現在を分析し未来を考えることは、
バカバカしく感じるかもしれないが、
「経済史を含む歴史こそ、知識人の不遜を矯正するのに欠かすことができない。」
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