本から離れようったってそうはいかない

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2010年出版の「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」。
ウンベルト・エーコジャン=クロード・カリエールの対談集だ。

フランス語の原題はかなり意味合いが異なる。

“N’espérez pas vous débarrasser des livres(本から離れようったってそうはいかない)”

先日、ウンベルト・エーコの小説「薔薇の名前」を途中で挫折し、
稲田豊史「本を読めなくなった人たち」で本の行く末を考えさせられた。
ふと昔、図書館でこんな本を見かけたな、と思い出した。

図書館で借りて読み始めると、素晴らしい内容なので、
ぜひ紙の本を手に入れて付箋を貼りまくりたい!と思ったら、
すでに紙の本は絶版(電子版はあり)。メルカリで譲ってもらった。
こんな良書の紙の本がなくなるとは、日本語タイトルが正しかったのか?

エーコは2016年、カリエールは2021年に他界しているが、
生きる百科事典のようなお二方の対話がとても興味深い。

AI時代に必要な能力

この対談が行われた当時は、AIが今のような形になることを知るよしもない。
でも以下のお二方の話を読んでいると、どんなに環境が変わっても、
私たちに必要な能力はそれほど変わらないのかもと感じさせられる。

フィルタリングなしで、ありとあらゆる情報が入手可能になり、端末を使えばなんでもいくらでも知ることができるようになった現在、記憶とはいったい何でしょうか。記憶という言葉は何を意味するのでしょう。電子召使いみたいなのがそばにいて、言葉で発した質問や、言葉にならない疑問に答えてくれるようになったら、私たちが知るべきことは何でしょうか。義肢的な存在が何でも知っているとしたら、それでも我々が習得しなければならないこととは何でしょうか。

考えをまとめて結論を導く技術ですよ。

そうです。そして習得するという行為そのものです。というのも、覚えたり学んだりということ自体、学ばないと身につかないものなんです。

印刷術の発明がすでに、できれば備蓄する手間を省きたい教養を「冷蔵」する、つまり何冊もの書物に振り分けて、一時的に必要になる情報がどこにあるかだけわかっていればいいようにする格好の機会だったのです。つまり、記憶の一部分を書物や機械に委ねるわけですが、これらの道具の長所を最大限に引き出さなければならないことに変わりはないわけでして。ということはつまり、自分自身の記憶を維持しなければならないということです。

インターネットが相互理解の妨げに

インターネットが相互理解の妨げになるという指摘も興味深い。
昔は対話の基盤となる知識は、個々人によって大きく変わらなかった。
でも今は誰もがインターネットを使って自由に知識を得ることができ、
たとえばデマや陰謀論を認識の基盤とする層との対話が難しくなっている。

諸文化は、保存すべきものと忘れるべきものを示すことで、フィルタリングを行ないます。その意味で、文化は我々に、暗黙裡の共通基盤を提供しています。…… 何の議論をするにしても、共通の百科事典を基盤にしていなければいけません。…… 対話の継続を保証するのはまさにそれなんです。こういった群居性によってこそ、対話や創造や自由が可能になってくるんです。

インターネットはすべてを与えてくれますが、それによって我々は、すでにご指摘なさったとおり、もはや文化という仲介によらず、自分自身の頭でフィルタリングを行なうことを余儀なくされ、結果的にいまや、世の中に六〇億冊の百科事典があるのと同じようなことになりかねないのです。これはあらゆる相互理解の妨げになるでしょう。

今の環境だからこそ紙の本が必要

あらゆる情報・知識が電子化されていく今だからこそ、
紙で残っていることの大切さを痛感させられた対話を抜き出すと、

インターネット経由での情報摂取を完全に阻止したいと考えた独裁勢力が、個人が各自のコンピューターで保存しているデータを破壊できるようなウイルスを撒きちらし、膨大な情報をいちどきに消失させることだってありえなくはないんです。USBキーに入れてある情報なんかもありますから、すべての情報を破棄することはたぶんできないでしょう。でもありえない話ではない。インターネットの影響力がこれほど絶大だと、我々が個人で備蓄している情報の八割くらいまでは消失させることができる日も来るんじゃないでしょうか。

ですが、たぶんすべてを消去する必要はないんですよ。「検索」機能を使えば、ドキュメント内に出てくるある特定の単語すべてを検出し、マウスで一回「カチッ」とやるだけで消去できてしまうように、ある単語ないしある語群だけを地球上のすべてのコンピューターから消去してしまうような情報科学による検閲だって想像可能ではないでしょうか。

このほかにはフロッピーディスクにCD-ROM、DVDなどなど、
新しい記憶媒体が次々に時代遅れになり、
またそれを読むための機器もなくなっていく不安定さの中では、
光さえあれば読むことができる紙の本はまだ重要との指摘もされていた。

Amazon.co.jp: もうすぐ絶滅するという紙の書物について eBook : ウンベルト・ エーコ, ジャン=クロード・ カリエール, 工藤 妙子: 本
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