21世紀の本をめぐる環境の激変/ジョン・B・トンプソン「ブック・ウォーズ」

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デジタル革命が書籍関連ビジネスに与えた衝撃を描いた、

2025年1月に日本語訳が出版されたが、
原書は2021年出版で事例やデータは2018~19年。
以下のような話題が盛り込まれている。

  • Amazon Kindle登場以降の電子書籍の普及
  • Googleの図書館プロジェクト
  • iPadの登場で本の新たな形を模索する動き
  • スマホ普及でオーディオブック市場が拡大
  • 読者とつながる方法を考え始めた出版社
  • 作者が出版社を通さず出版できる時代(自費出版、クラウドファンディング)

COVID-19の襲来を機にまた変化が起きていそうなので、
2025年の今、そこが読めないのが残念ではある。
本をめぐる環境が激変したことを振り返ることのできる良書だ。

アメリカの電子書籍事情

Amazonの初代Kindleが2007年11月に発売されて以降、
アメリカでの電子書籍市場は2012年まで右肩上がり。
しかし書籍売上総額に占める割合は2014年の24.1%がピーク。
その後は横ばいとなり、2018年には14.7%まで減少している。

ジャンルによって電子で売れるものがはっきりしてきたという。
直線的に読む小説は電子書籍向きで、
その中でもロマンス、SF、ミステリは電子書籍が3割超を占める。

電子書籍が他のジャンルに広がらなかったのは、
本には所有価値があるからだ、と著者は考えている。
本棚に並べて後で読み返したり、他の人に貸したりといった価値。
ここが所有よりもアクセスが重視される音楽との違いであり、
出版業界が音楽業界ほど違法コピーに悩まされなかった理由でもあると。

日本の電子書籍は圧倒的にコミック!

日本の電子書籍事情はどうなっているのか調べてみると、
市場規模の9割近くをコミックが占めているらしい。
Deep Research が間違ったデータを引っぱってきたな、
と思って引用元を調べたら、2つの調査で似たような統計が!

読者とつながる方法を考え始めた出版社

これまで出版社は、編集上の判断で世に送り出す本を決め、
それを書店へ送り出すまでを主たる事業としてきた。
しかし紙書籍の5割(2019年)・電子書籍の7割(2016年)を占める、
Amazonが読者データを握る圧倒的な存在になったことで、
読者を中心としたビジネスの再構築を迫られた。

本を出版してから、その本の市場を探すのではなく、
出版社が直接、読者とつながることで、
本の市場を見つけてから、出版するかどうかを決める。

これに関しては本書の事例よりも、
日本のエンタメ業界の激変を考えた方がわかりやすい。
日本で小説投稿サイト(小説家になろう、カクヨム)から、
大ヒットラノベが生み出されて、漫画・アニメに広がった。

新たな本の形への再挑戦は?

本書を読むまですっかり忘れていた新たな本の形への挑戦。
2010年のiPad発売に合わせて発表されたアプリ「元素図鑑」。
書籍の新たな時代を感じさせる素晴らしいアプリだった。

日本でも独自レイアウトの辞書アプリ(物書堂の大辞林)が、
2009年にiPhoneのTVCMで採用されて話題になった。

だがその後、低価格のアプリが氾濫するようになり、
時間とお金をかけたアプリの製作は下火になっていく。
私自身は物書堂アプリを今も愛用しているが、
この分野は出版業界において忘れられた存在になってしまった。

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