寺田寅彦「天災と国防」

物理学者でエッセイスト。 おもしろい肩書き。
私が物理学に興味を持ったことで、ようやく出会った寺田寅彦。
関東大震災前後を生きた著者の自然災害に関するエッセイを
東日本大震災を受けて、12本ピックアップした本が今日の一冊。
現代に通じる知恵が散りばめられていて興味深い内容だ。
(失敗学の畑村洋太郎氏の解説つき・末尾の約40ページ)

だれの責任であるとか、ないとかいうあとの祭りのとがめ立てを開き直って子細らしくするよりももっとだいじなことは、今後いかにしてそういう災難を少なくするかを慎重に攻究することであろうと思われる。・・・しかし多くの場合に、責任者に対するとがめ立て、それに対する責任者の一応の弁解、ないしは引責というだけでその問題が完全に解決したような気がして、いちばんたいせつな物的調査による後難の軽減という眼目が忘れられるのが通例のようである。」P41

事故後の責任追及と原因究明は別々に行われるべき
事故の当事者は原因究明に協力すると責任が重くなってしまうから。
でも現実にはこの2つがゴチャ混ぜに進められることが多く、
将来への教訓が得られないまま忘れ去られるものだと。
この問題は今なお解決されず、原発事故の調査でも繰り返される。

「津波と人間」という題のエッセイでは、
1896年、1933年と三陸地方を襲った津波を例にあげ、
世代が変わると防災意識が低下することを嘆いている

津波に懲りて、はじめは高い処にだけ住居を移していても、五年たち、十年たち、十五年二十年とたつ間にはやはりいつともなく低い処を求めて人口は移っていくのであろう。」P138

また、日本の自然災害の多さを前向きに捉え、
「災害の進化論的意義」を唱えている点もおもしろい

日本人を日本人にしたのは実は学校でもなくて、神代から今日まで根気よく続けられてきたこの災難教育であったかもしれない。」P51

災難に遭わなければ、人間は頭を使わないだろうからと。
科学者らしい意見かな。文化・哲学の面からも日本はおもしろいよ。
※関連記事…歴史・文化から見る日本のリスク感覚(2011/05/02)
最後に表題「天災と国防」に込めた著者の思いは、

思うに日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では、陸軍海軍のほかにもう一つ科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないかと思われる。」P22

天災と国防 天災と国防
(2011/06/10)
寺田 寅彦
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