タイパはオタクに憧れる?/稲田豊史「映画を早送りで観る人たち」

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現在の圧倒的な「eMAXIS Slim 全世界株式(オルカン)」人気は、「コスパ」「タイパ」重視の世の中と関係があるのだろう。私には無縁の世界だから…、と距離を置かずに学んでみようと思い、まずは「倍速視聴」に関する新書を読んでみた。
なるほど!と思った論点をいくつか。

多数派に属せない不安

世の中でもっとも多数を占める集団に属していることへの安心感。少なくともいつの時代も若いうちはとくに大切なこと。
ところが、現在ではカルチャーシーンから多数派(メジャー)が消えてしまった。「ナンバーワンよりオンリーワン」が価値観の多様化を促進した結果、趣味や趣向の島宇宙化を招き、「圧倒的多数の、みんなが好きなもの」が激減してしまったのだ。
たしかに私が子どもの頃はアニメと言えば、キン肉マンやドラゴンボールが圧倒的な人気で長期放送されていた。でも今は3ヶ月ごとに新しいアニメが次々と放映されているから、周囲の話題に加わるために倍速で浴びるように視聴しなければいけない…

自己紹介欄に書ける個性が欲しい

属するだけで安心感が得られるメジャーな文化が消えた今、若者は拠り所になりうる好きなものを探し求めている。その延長に「オタク」への憧れがあるのだという。
著者のオタクの定義を読んで、ズバリ私のことで笑った。
従来のオタクは、何かが好きすぎるあまり、大量に観たり読んだりする。その結果、他のジャンルが気になってきて興味が広がり、さらに大量に見たり読んだりして、好きなものヘの理解をどんどん深め、その過程を楽しむ。 S F作品をきっかけにして物理学に興味を持ったり、ファンタジー作品への理解欲求が宗教や神話を学ぶことにつながったりする。そうして、充実したオタ活を満喫するのだ。
ただし若者はオタクになりたいのではなく、好きなものや打ち込めるものがない状態から早く脱するため、個性を手に入れるために、オタクという能力が欲しいだけなのだ。
今の時代は本物のオタクを目指そうとしても、SNSを探せば同世代の上位互換の存在がすぐに目に入ってくる。それならば、ただ純粋に好きだという「推し」に留まっていたい。

異世界転生ジャンルの人気とも連動

ライトノベルからマンガ化、アニメ化される作品に多いのが異世界転生。現代人が異世界に転生し、現代の知識や技術を生かすことで、その世界で圧倒的な優位に立つ主人公、というのが型のようになっている。こうした物語がタイパ重視の層にはとくに好まれるのだという。
最小の労力で最大のリターンが得られる楽な方法への憧れ。ビジネスで求められる効率主義が、趣味の世界まで侵食している一例だ。
「直接的な人材ニーズに直結しないジェネラルな教養」より「職能的な意味でニーズが見込めるスペシャルな専門知」にある種のコスパを見出す若者気質が垣間見える。そのような若者気質を生み出した背景に、効率的なキャリア到達を求めるキャリアプラン策定圧や、終わりの見えない経済的低成長要するに日本社会の精神的余裕のなさがあるのは明らかだ。
これを言われると、どうにもならない世の流れのような気が…引き続き「タイパ」関連の本を読みすすめてみようと思う。

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