21世紀版「海賊資本主義」/水野和夫「次なる100年 歴史の危機から学ぶこと」

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水野和夫「次なる100年 歴史の危機から学ぶこと」は、
「ゼロ金利」の持つ意味を歴史的背景を踏まえて掘り下げた一冊。

私が投資をはじめた約20年前、ゼロ金利は日本に特有の珍現象だったが、
今や金利がないのは当たり前で、気にもとめなくなってしまっていた。

しかしそもそもゼロ金利が何を現しているかと言うと、

「ゼロ金利の長期化は、GDP潜在成長率が概ねゼロであることの反映であり、資本の自己増殖を目指す資本主義にとって実物投資はもはや資本を増やせない。」(P44)

にもかかわらず、私たち個人投資家は株式への長期投資に期待を寄せるし、
私自身もこの20年でその恩恵を大いに享受してきた実績もある。

金利の低下は経済成長率の低下と同義。でも株価は右肩上がり。
この矛盾をどう説明すればいいのか? 

こうした疑問に対する著者の説明を引用しつつまとめると、以下のようになる。

「20世紀までは利潤率と利子率は平均してみれば同じ水準で同じ方向に動いていた。理論どおりだった。21世紀になって利潤率と利子率が急激に低下したことが危機をもたらせた。実物投資空間で利潤率が上げられるのであれば、多くの国民に生活水準の向上というかたちでその恩恵が及ぶ。しかし、電子・金融空間で利澗を極大化しようとすれば、株価の変動幅を大きくするしかない。株価を上昇させるにはROE(自己資本利益率)の上昇と金融緩和政策が必要であり、株価は将来の期待を織り込むので、容易に上昇する。」(P33)

「旧空間が狭くなると、新しい空間を創造し、旧空間から富を強奪することで、「原初的資本蓄積」が行われる。資本主義が始まった16世紀には法の支配が及ばぬ「海」において、そして21世紀においては法整備が追い付かない「電子・金融空間」や「サイバー空間」で行われている。資本家はROE経営の名のもと、旧空間となった「実物投資空間」に属する働く人や預金者が本来受け取るべき賃金や利息を利潤につけ替えている。」(P75)

  1. 利子率低下により、資本家は実物投資空間でリターンをあげることがむずかしくなり、
  2. 資本家の関心は電子・金融空間での利潤極大化に移っていった。
  3. 実物投資空間(旧空間)から離れたことで、資本が増加しても市民の生活向上につながらず、
  4. むしろ電子・金融空間(新空間)の利潤は、旧空間からの強奪により成り立っている。
  5. 法の整備が追いつかない新空間で荒稼ぎする行為は、16世紀の海賊と同じ?

つまり一般市民が株式投資で資産形成ができたと喜んでいたとしても、
それは本来支払われるべきだった賃金の一部が返ってきているだけ。
株式投資を通じて薄々気付く、現在の世の中の仕組みではあるが、
歴史やデータを積み上げて証明されると、なんだか申し訳ない気持ちになる。

まぁ私は先祖をたどると瀬戸内海の海賊に行き着くので、
数百年の時を経て同じ仕事をしているのか!と苦笑するしかない。
個々の企業の事業内容に目を向け、より良い未来をもたらすビジネスは何か?
と考えて投資することが、海賊の中でも良識ある一派に分けられるといいが。。。

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