藤の和歌。長寿の松に絡ませて藤原氏の繁栄を願う?

この記事は約2分で読めます。

藤の花が咲き始めて、見慣れた形は藤棚で花が風に揺れる光景。
でも近くの公園で壁の手すりに絡みついて咲いているのを見て、

藤棚って昔からあった訳じゃないよね?と和歌を調べてみた。

「松」「藤波」がセットで詠われている例が多く、
庭園の松に藤を蔓を這い上らせて植栽されていたようだ。
これに関連する興味深い一首がこれ。

水底の 色さへ深き 松が枝に 
ちとせをかねて 咲ける藤波

水底に映る深い緑をたたえる松の長寿にあやかって、
千年後の繁栄を思わせるように藤の花が咲いている。
ここでの「藤」はもちろん「藤原氏」の隠喩。

10世紀半ばに編纂された後撰集に収録される一首。
よみ人しらず(作者不明)。
よみ人しらずの解釈はいろいろで、

  • 実は編集者が自分で詠んだ和歌を加えている(例:古今集の紀貫之
  • 多くの歌人がカバーしすぎた人気歌で誰が作者か分からなくなった

といったものを見かけるが、
もしかすると、松に藤を這わせる植栽は、藤原氏が好んではじめたことなのかも。

関連する意味深に感じる一首としては、

松がけの みどりを染めし 池水に 
紫ふかく かかる藤波

堀川百首(1105年頃成立)に収録の源師頼の一首。

池の水面を緑に染める松の影。
その松の影を覆い尽くすかのように、藤の花が深い色合いで輝いている。
松を皇室と捉える解釈もあるようで、
藤原氏が皇室を飲み込んでいく様子を現しているかのような一首。

このほか目にとまった藤の和歌としては、

わが屋戸に 咲ける藤波 たちかへり 
過ぎがてにのみ 人の見るらむ

古今和歌集に収録の凡河内躬恒の一首。

屋敷に咲く藤の花に惹かれて、いったん通り過ぎた人が戻ってくる。
波のように揺れる藤と人の波をかけている。

最後に和歌に藤棚が詠まれているものとして、
戦国武将でもあった木下勝俊(1569~1649)の歌集「挙白集」。

置く霜と しろきをみれば かささぎや 
ここにもわたす 藤のたなはし

藤棚が作られはじめるのは江戸時代の頃なのかもしれない。

コメント