「もののあはれ」と「をかし」/大野晋「古典基礎語辞典」

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大野晋氏といえば「日本語練習帳」が有名だよね。

そんな日本語研究の大家、大野氏は2008年に亡くなったけど、

氏が自分の死後、できたところまでまとめて出版して欲しい、

と遺した作品が昨年出版された「古典基礎語辞典」。

古典基礎語辞典
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用語解説がエッセイ調で展開し、読み物としてとてもおもしろい。

平安時代の美意識「もののあはれ」と「をかし」の項目を紹介すると…


もののあはれ=もの+の+あはれ

  • もの…決まり、運命、動かしがたい事実。
  • あはれ…共感のまなざしで対象を見るときの人間の思い。

「もののあはれ」の最も古い例は紀貫之の「土佐日記」。

紀貫之にとってはモノノアハレは「人の別れのあわれさ」あるいは「人生の変えられない運命のあはれさ」であったと言える。

でも時代とともに「もののあはれ」に込められた想いは変わる。

「源氏物語」の「もののあはれ」を引用しながらこうまとめる。

「源氏物語」以前のモノノアハレはもっぱら「人生のさだめのあわれさ」に限られていた。ところが「源氏物語」ではそれが「男と女の出会いとの別れのあわれさ」の意に片寄って使われている。「源氏物語」はすべて男と女の恋の物語であり、恋の種々相、恋のなりゆく果てを語ろうとする作品である。だから、そこにある「人生」とはつまり男と女と相逢うこと、相別れることにほかならなかった。

※関連記事…「あはれ」はなぜ悲哀化したのか?(11/06/12)


「をかし」には大きく分けて2つの意味があり、

  • A…「滑稽だ」「笑ってしまう」「変だ」などマイナスの観念を表し、相手や対象に優越の意識を持って対する場合に使われる。
  • B…「興味をひく」「おもしろい」「かわいい」「気がきいている」「美しい」などプラスの観念を表している。

平安期の女流文学ではBの意味で多用されたが、

現代でもAの意味が残っているようにその影響は大きく、

ヲカシは「古今集」以下八代集の和歌には一例も用いられていない。これはヲカシがはじめから「ばかばかしい」「笑ってしまう」というAの意味が絶えず陰に意識されていたので、風雅の心の表現である和歌にはそぐわないものであったからではなかろうか。


辞典は6,500円(税別)と高価だから万人向けではないけど、

「もの○○」の用語の解説部分だけを抜粋した文庫本が今月発売。

日本の古典に興味がある方は、ぜひ手にとってみてね。

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