ジョルジョ・アガンベン、緊急事態への抵抗の記録「私たちはどこにいるのか?」

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今回のパンデミックで初めて名前を知った、
イタリアの哲学者、ジョルジョ・アガンベン(1942~)。

イタリアでのCOVID-19第一波は2020年2月下旬から始まり、
3月に死者数が急上昇し、ピークは3月31日の837人。
6月下旬に落ち着くというような推移となった。

ちょうど同じ期間にアガンベンが次々と発表した論考が、
いわゆる「炎上」案件となり、嘲笑と黙殺の対象となったという。

その論考がまとめられた一冊が、今年2月に翻訳されていた。

一番最初の論考は、イタリアでCOVID-19が猛威をふるう直前、

「例外化措置の原因としてのテロは枯渇してしまったが、その代わりにエピデミックの発明が、あらゆる限界を超えて例外化措置を拡大する理想的口実を提供できる、というわけである。」(2020年2月26日)

例外化措置というのは、行政が立法権を行使すること。
日本で言うと、国会で法律が採決・制定される前に、
閣議決定でものごとが進んでしまうような状態が近いだろうか。

これまでは「テロリズムと戦うために」という文脈で利用されてきたが、
「エピデミック」という口実を「発明」することで、
行政が人々の権利を制限しはじめたことに懸念を示した。

「この国を麻痺させたパニックの波がはっきり示している第一のことは、私たちの社会はもはや剥き出しの生以外の何も信じていないということである。・・・延命以外の価値をもたない社会とはどのようなものか?」(2020年3月17日)

「より深刻なエピデミックは過去にもあったが、だからといって今回のような、私たちの移動まで阻止する緊急状態を宣明しようと考えた者など誰もいなかった。人間たちは、永続する危機状況、永続する緊急事態において生きることにこれほどにも慣れてしまった。・・・永続する緊急状態において生きる社会は、自由な社会ではありえない。」(2020年3月17日)

生存するために、人間社会が大切にしてきたあらゆるものを捨ててしまい、
そのことに慣れてしまっているが、アガンベンは特に移動の自由に注目。

人間が他の人間を支配する一番効果的な方法は、移動を制限すること。
行政が立法を超えてしまう「例外状態」において、
移動の自由が制限されていることに対して、極めて強く警笛を鳴らす。

「行政権は緊急政令を通じて事実上、民主主義を定義づける権力分立というあの原則を廃止して立法権の代わりとなるが、その緊急政令が無思慮に使われるということに、私たちは以前から慣れてしまっている。しかし今回は、あらゆる限界が乗り越えられてしまった。」(2020年4月13日)

イタリアで刻々と状況が悪化していく中で、
都市封鎖に反対するアガンベンの論考は炎上する。
それでも抵抗し続けたのは、ナチス・ドイツが例があるから。

「二十世紀の歴史が、とくにナチがドイツで権力の座に着いたことに関してはっきりと示しているのは、例外状態は民主主義国家を全体主義国家へと変容させることを可能にするメカニズムだということです。」(4月19日インタビュー)

私たちが20世紀に学んだことを忘れているかのような事態に対し、
アガンベンは問題提起を続けていたのだ。

「私たちはいま、西洋政治史における一つの時代の終わりを生きています。その時代とは、憲法、諸権利、議会、権力分立にもとづいたブルジョワ民主主義の時代のことです。このモデルはしばらく前から危機に瀕しており、憲法上の諸原則はますます無視されるようになっており、行政権はほとんど全面的に立法権の代わりに置かれてしまった。いまやもっぱらそのように起こっているように、すでに行政権は緊急政令を通じて立法権を行使していました。パンデミックと言われているものとともに、さらなる一歩が踏み出されました。アメリカの政治学者たちはテロに基礎づけられた国家をセキュリティ国家と呼んでいましたが、これがいまや、健康に基礎づけられた、「バイオセキュリティ」と呼べる統治パラダイムに座を譲った。」(2020年5月20日インタビュー)

本来は権利であったはずの市民の健康が、今回のCOVID-19襲来により、
いかなる対価を払ってでも果たすべき、法的・宗教的義務に変容した。
そしてひとたび健康への脅威が近づくと、私たちはやすやすと自由を手放す。
そのことが分かった今、ふたたびナチス・ドイツの悪夢が蘇るのでは?

社会が落ち着きを取り戻すにつれて、
アガンベンの論考がとても重要なものであったことが明らかになってゆく。

なお本書ともに合わせて視聴すると理解が深まるのが、
東大TVで配信されている國分功一郎氏の動画(2020年10月の講演動画)。

私たちはどこにいるのか?
青土社
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コメント

  1. おかちゃん より:

    まろ様 はじめまして
    お薦め頂く書籍は、いつも考えを深めていく上で参考になる良書ばかりです。
    今回ご紹介頂いた著作についても、このコロナ禍のモヤモヤについてヒントを与えてくれそうです。
    アメリカなどでマスクを断固として拒絶する人々に「いや、今はマスクするでしょ。何考えてるんだろ!」と思ったものです。しかし、沖縄の佐喜眞美術館で丸木位里・俊夫妻の「沖縄戦の図」を見た際に、描かれた無数の人達の山(敢えて山と記します)に、自分の中の違和感に声を上げないと、こういった惨状を招くのだと感じました。日本の行政は、根本的な解決ではなく、小手先の法解釈などで事態を乗り切ろうとする悪癖が強いです。我々自身も時間をかけて議論を深めることを回避しがちですが、そのようなことではますます自分たちを取り囲む状況は悪くなるばかりだと感じています。

    • まろ(吉田喜貴) より:

      コメントいただきありがとうございます。
      リーマン・ブラザーズの破綻からはじまる金融危機、東日本大震災、そして現在のコロナ禍と、危機は深く思考する機会を与えてくれるものでもあると思います。むしろこういう時ではないと、真剣に学び取ろうとしないのが人間というものなのかもしれません。
      一人が学んだところで社会に影響を与えられるものではないとあきらめがちですが、こうして学んだことのメモを公開しておくことで、誰かのお役に立つこともあるわけで。これからも続けていこうと思います。ありがとうございました。

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