井川直子「シェフたちのコロナ禍」

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2020年4月7日、7都道府県に緊急事態宣言が出された翌日、
4月8日から5月27日にかけて全34店舗の料理人の声を拾い、
同年10月に再度聞き取りを行った記録。

COVID-19の災禍で、不安がピークに達していた2020年春、
当初、飲食店は休業要請対象外で、休業補償もどうなるか不明。
「接待を伴う飲食業」という曖昧なくくりで批判にさらされ、
国や東京都は自粛を求めて国民、都民の良心に訴えかけるだけ。
まるで応仁の乱での室町幕府のようなありさまだった。

そんな真っ只中でのそれぞれの考えを記した貴重な記録。
印象的だった発言をいくつかメモしておこう。

今回の危機ですでに起きていた変化が加速する。
そんな話をたびたび目にするが、

「このコロナが終息したら、人々の食生活は、きっと変わっているような気がします。流行りの店を転々と食べ歩いたり、一年予約待ちのプラチナシートを競うように押さえたりといった、外食への向き合い方が。」(渋谷・酒井商会)

ちょうどこの感覚、2019年の私に起きていたことだった。

東京の食べログ4.0超を制覇したい!と食べ歩いた時期から、
地元や同世代の料理人のお店へ通うようになっていた。
歳のせいかと思っていたが、時代の潮流を感じ取っていたのだろうか。

時代の潮流という観点で気づかされたは少子高齢化について。
どうしても働き手の不足に目が行きがちだが、
食べたくても店へたどり着くのも困難な人が増えるということにもなる。

「今回お持ち帰りに切り替えてみて、わかったことがあるんです。普段、外食に出づらい方々が想像以上にいらっしゃるんですね。小さなお子さんがいるとか、両親と行きたいけれど足が悪くてままならないなど。そういった方々が、お持ち帰りできることをとても喜んでくださった。私は初めて、その声の多さに気がつきました。」(駒場東大前・七草)

高齢者は死亡率が高いから外出自粛を、と呼びかけられ1年以上が経過。
危機が去った後は遠出をする気力・体力を失ってしまう高齢者が多いのでは?

企業の接待はさすがに元には戻らないだろうし(無駄だと再認識したはず)、
外国人観光客が戻ってくるのはいつになるのか分からない。

そうなると周辺住民のニーズに応えることが存続につながるのだろう。
高級店が銀座に集中するような時代も終わるのかもしれない。

また本書にも登場するシンシアの石井シェフ、レフェルヴェソンスの生江シェフは、
サステナブルへの取り組みをはじめ、社会活動に積極的なシェフの代表例だが、
彼らに限らず、広い視野を持ったシェフが数多くいることを知ることができた。

「世界の動きを僕らなりに咀嚼した考えや、築いてきた生産者とのつながりもこちらに落とし込む。そうして社会の分断をなくすってことが目標です。今は「なぜレストランをやっているのか」という意義が問われる時代だと思っていますが、僕らの答えははっきりとここにあります。」(代々木上原・クインディ)

最後におそらく本書の中で一番の重鎮、コート・ドールの斉須政雄シェフの言葉。

「僕はシェフになった時、長く生き抜くにはどうしたらいいんだろう? と考えていました。最近になって思うのは、お店にしても料理にしても、自分のやりたいこと=楽しさと、お客さんがいいと言ってくれるもの=要望が併走することだと。「今これが受ける」といったところにはきっとありません。」

飲食業界の枠にとどまらない、ビジネスの勘所と言えるかもしれない。

歴史上、パンデミックは、30~40年ぐらいの周期で発生するものだったが、
1968年の「香港かぜ」以来40年以上も起きない不思議な時代が続いていた。
森林破壊による生息地を追われた動物と人との接触が増える影響で、
今後はより早い周期で、一生のうちに幾度もパンデミックに遭遇するのかもしれない。
本書は次なるパンデミックの際に、振り返るべき貴重な資料になるだろう。

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