ウイルス探求の三冊目。山内一也「ウイルスの意味論」。
前回読んだ中屋敷均「ウイルスは生きている」でも、
ウイルス研究を通して、何を持って生きているとするのか?
という見解が述べられていた。
本書では20世紀にウイルスの研究が進むことに伴い、
生命の定義について様々な見解が示されていることを知った。
「自然は生物界から無生物界まできわめて徐々に移り変わっているので、両者の境界線は疑わしく、おそらく存在しない。」(アリストテレス)
科学的知識が蓄積された現在でもこの認識は変わらない。
生命と生物の定義についての変遷の記述をメモ。
生命の定義の変遷
生命の定義づけのはじまり
近現代科学における生命の議論は、
1935年に分子生物学の創始者、マックス・デルブリュックが、
遺伝子が「生命の究極の単位」になることを予言したことではじまる。
そして量子力学の生みの親、エルヴィン・シュレーディンガーが、
1944年に出版の「生命とは何か」でデルブリュックの考察を受けて、
「生命は秩序のある規則正しい物質の行動であって、それは秩序から無秩序へと移り変わってゆく傾向だけを基としているものでなく、現存する秩序が保持されていることも一役買っていると考えられます。」
地球外生命体を探すNASAの定義
しかしこれでは抽象的なため、より具体的に言い表すとどうなるか。
地球外生命体を探す上で、生命の定義づけが必要なため、
1992年からアメリカ航空宇宙局(NASA)で議論が進められ、
「生命はダーウィン進化が可能な自立した化学システムである」
という定義が1994年に発表された。
ダーウィン進化に含まれるものは、
- 自己複製または増殖
- 遺伝
- 形態と機能の変異
- 代謝
これまでの定義を言語学的に整理
NASAの定義以外にも2011年にエドワード・トリフォノフが、
これまでに多分野の科学者が提唱した定義を集め、
言語学的に整理したところ、
「生命は、変化(進化)を伴う自力増殖が可能で代謝活性のある情報システムであって、エネルギーと適切な環境を必要とする。」
という文言が浮かびあがり、最終的に、
「self-reproduction with variations(変異を伴う自力増殖)」
という3つの単語に集約された。
ただしこの定義の「自力」の部分には批判もあり、
ウイルスは複製はするが自力では増殖できず、
また人間も食事により外部の助けを得ているから、
人間もウイルスも生命に該当しなくなってしまうのでは?
生物の定義の変遷
- 19世紀前半までは、生物とは動物と植物。
- 1860年、ワインやビールの発酵の原因として酵母(真菌)がパスツールにより発見され、真菌が生物の仲間に。
- 1867年、ロベルト・コッホが炭疽菌を分離。当初は真菌も炭疽菌と同様に細菌の一種とされていたが、真菌には核があり細菌には核がないことから、20世紀半ば、生物はさらに真核生物(動物、植物、真菌)と原核生物(細菌)の2つに分けられた。
- 1970年代に遺伝子解析の技術が生まれ、1977年にカール・ウーズが「古細菌(アーキバクテリア)」を発見。その後、古細菌は細菌よりも真核生物に近いことがわかり、1990年、ウーズは古細菌を細菌とは別の系列の生物と判断して、名前から「細菌(バクテリア)」を削除し「アーキア」に改めた。そして、生物界を真核生物、細菌、アーキアという三つに分類することを提案。これが現在まで定説となっている。
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