マルコ・ピエール・ホワイトの自伝「キッチンの悪魔」を読んだ。
イギリスの片田舎の貧しい父子家庭で育ち、高校中退後に料理の道へ進み、
ミシュランの星付きの「ル・ガヴローシュ」「ル・マノワール」で働いた後、
26歳でロンドンに「ハーヴェイズ」を開店し、1991年にミシュラン二つ星を獲得。
1993年に開店した「レストラン・マルコ・ピエール・ホワイト」で、
イギリス人初、当時史上最年少の33歳で三つ星を獲得した人物だという。
とにかく破天荒な生き方で、天才はこうあって欲しいなと思ってしまう。
ル・ガヴローシュを辞めて、ル・マノワールに移るときは、
給料はいらないから働かせてくれ、と厨房に入り込み、料理の腕で認めさせる。
自分の店を持ってからは、迷惑な客がいれば、地位にかかわらず店から追い出し、
ミスをしたスタッフには今ならパワハラで訴えられそうな仕打ちをする。
まさに本書のタイトル通りの「キッチンの悪魔」だ。
どの分野でも最近の天才は優等生で、この手のタイプはあまりいないよね。
サッカーを例にすると昔はマラドーナで、今はメッシみたいな。
さて著者はミシュラン三つ星を獲得して5年後、星を返上して引退する。
その理由として目標達成の喪失感や気力の限界をあげるとともに興味深い一節があった。
「加えて、私の料理人たちが次々と私のもとを巣立ち、別の店で料理長になっていった。そして、その代わりに料理の現場へとやってくる新人シェフたちの風貌も、気に食わなかった。若者たちは、料理するためではなく、有名になるために料理の世界へやってきた。彼らの目的は、シェフではなく有名シェフになることだった。ダジャレじゃないが、やつらにはハングリー精神がなかった。エネルギーや情熱がなかった。そんな状況のなかで、果たして新しいチームを築きたいだろうか? そう自問するたび、幻滅が湧きあがった。」
三つ星を取ったことで、応募してくる料理人の質が落ちたことが気に入らなかったという。
上場企業になると優秀な人材の獲得チャンスが増えるとよく言われるが、
一方で「寄らば大樹の陰」的な社員も増える、諸刃の剣になってしまうのと同じか。
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