サイエンスエッセイ、中屋敷均「科学と非科学」がおもしろい!
本書の第七話「科学と非科学のはざまで」は、
2019年の東京大学の入学試験にも採用された名文だ。
まず「カオスの縁」という概念を出だしで説明した上で、
「とても大雑把に二つの大きく異なった状態(相)の中間には、その両側の相のいずれとも異なった複雑性が非常に増大した特殊な状態が現れる、というようなこと」
生命現象へと話をつなげてゆく。
エントロピー増大の法則)に支配されるこの世界では、
あらゆる分子は時間とともにカオスへ向かっていくもの。
しかし生命はその中で自分に必要な分子を取り入れ、
そこに秩序を与え「形あるもの」を生み出す、例外的な現象であると指摘。
「様々な意味で生命は秩序に縛られた静的な世界と、形を持たない無秩序な世界の間に存在する、何か複雑で動的な現象である。「カオスの縁」、つまりそのはざまの空間こそが、生命が生きている場所なのである。」
またこの世界における科学の役割とは、
「科学は混沌とした世界に法則やそれを担う分子機構といった何かの実体、つまり「形」を与えていく人の営為と言える。」
しかし科学により世界の秩序・仕組みが明らかにすることで、
「形」が決まった世界は、私たちにとって好ましいものなのだろうか。
「物理的な存在としての生命が「カオスの縁」に立ち、混沌から分子を取り入れ「形」を作り生きているように、知的な存在としての人間は、この「分からない」世界から少しずつ「分かること」を増やし、「形」を作っていくことで、また別の意味で「生きて」いる。」
そして分からない世界だからこそ、人間の知性や決断に意味が生まれるのだと著者は説く。
生きる意味が分からない世界から分かることを増やすこと。
そうだとすれば、たしかに思い当たる節が多々ある。
なんとか分かりそうだけど分からないものに出会い、
時間を忘れて没頭して、なおかつ分からない、という時間の使い方は楽しい。
そしてやりがいを感じることを見つけ続け、探し続ける、
そうした人生こそが幸せな生き方であり、生きる意味なのだろうね。
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