不妊症の野菜を食べ続ける人類の未来は?/野口勲「タネが危ない」

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ADMへの投資をはじめたのを機に農業ビジネスを探究している。
その中で知ってしまった野菜のタネに関する恐るべき現状。

固定種とF1種

タネには大きく分けて、固定種とF1種の2種類があり、

  • 固定種…地域で何世代に渡って育てられ、自家採種を繰り返すことによって、その土地の環境に適応するように遺伝的に安定していった品種。
  • F1種(一代雑種/”First flial generation”)…異なる性質の種を人工的に掛け合わせて作った雑種の一代目。

タネがあぶない固定種のみを扱う種苗店の経営者が書いたのが、
今日の一冊、野口勲タネが危ない」。

雑種の一代目はメンデルの法則により優性形質だけが現れることから、
見た目が均一に揃い、生産者にとっては出荷に有利。
また生育が早まり、収穫量も増えることからF1種が圧倒的な支持を集め、
現在では固定種は地方の伝統野菜に残る程度となっている。
そしてもちろん種苗メーカーも毎年タネが売れてウハウハだ。

雄性不稔のF1がミツバチを殺す?

著者がF1種を問題視するのは「雄性不稔(ゆうせいふねん)」という方法。
雄性不稔とは葯や雄しべが退化して受粉ができない現象だが、
このミトコンドリア遺伝子の異常を人為的に起こすことで、
良質のF1種が安定的に作り出すことができるのだという。

だが雄性不稔は人間で言うところの男性の不妊症。
F1種の野菜を食すことの人間への影響は未だ不明だが、
著者はミツバチ失踪との関連があるのでは?と指摘している。

蜂群崩壊症候群(CCD/”Colony Collapse Disorder”)。
一般的な原因説としては以前紹介したとおりだが、

著者の仮説はこうだ。

  1. 1940年代、タマネギやニンジンなどの雄性不稔野菜に受粉させてF1種子を得るため、養蜂業者のミツバチが活用されるようになった。
  2. ミツバチはミトコンドリア遺伝子の異常な野菜の蜜や花粉を集め、ローヤルゼリーにして次世代の女王バチに与えられる。
  3. 新しい女王バチは他のコロニーのオスバチと交尾して、たくさんの働きバチを生むとともに、次の女王バチと数匹のオスバチを生む。このオスバチは未受精卵だから女王バチの遺伝子しかもっていない。
  4. 養蜂業者は一定の農家と契約しているはずだから、雄性不稔F1種子の受粉のために使われているミツバチは、世代が変わっても同じ季節に同じ採種農家の畑に行くだろう。したがって、この養蜂業者が所有するミツバチは、代々、雄世不稔の蜜と花粉を集め、さらに次世代の女王バチとオスバチを育て続けることになる。
  5. ミトコンドリア異常の蜜で育った女王バチは、世代を重ねるごとに異常なミトコンドリアの蓄積が多くなり、あるとき無精子症のオスバチを生まれるのだろう。
  6. やがて巣の中が無精子症のオスバチだけになることも起こりかねず、それに気が付いたメスの働きバチはパニックをおこすにちがいない。そして巣の未来に絶望するとともに本能に基づく奉仕というアイデンティティーを失い、集団で巣を見捨てて飛び去ってしまうのではないだろうか。
  7. この異常が最初におこったのが報道の通り1960年代だったとしたら、オスバチが無精子化するのに約20年という継代が必要だったのだろう。だとしたらCCD(蜂群崩壊症候群/ “Colony Collapse Disorder”)は1980年代にもおこっているはずだが、今のところその記録はない。2006年と2007年以降のCCD発生情報も今のところ聞いていない(本書は2011年出版)。
  8. 1~6の仮説が証明されるとしたら、2020年代にもっと巨大な規模でCCDが全世界で発生するときだ。

寡占状態の種子ビジネス

たとえ著者の指摘したとおり今後、F1種をめぐって問題が生じたとしても、
もう後戻りをするには種子メーカーの力が強すぎて無理かもしれない。

著者は2007年時点の種子ビジネスの世界シェアを示しながら、
多くの種苗会社が遺伝子組み換えを推進する巨大企業に買収され、
寡占が進んでいることを危惧しているが、その後事態はさらに悪化。

以下は2016年2月に中国公営企業のケム・チャイナが、
世界シェアが農薬で1位、種子で3位のシンジェンタを買収する
というニュースが出た際に書かれたレポート内の表だ。

中国化工がシンジェンタを5兆円超で買収へ

日本国内では輸入野菜との差別化を図るために、
固定種の伝統野菜に力を入れる生産者もいるようだが規模は小さい。

遺伝子組み換え食品に適応した人間が子孫を遺していく…。
そういう進化を期待するしかないかもしれないね。

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