東京大学の史料編纂所に所属する金子拓氏。
この人が書いた信長の本を読みたい!と思ったきっかけは、

明治時代から続く日本史史料の編纂事業で金子氏の担当は、
信長上洛から本能寺の変までを扱う第10編(1568~1582)。
「先輩方が戦前に刊行を始め、いま折り返し点くらい。1998年の着任後、27年間でやっと天正2年6月から天正3年7月まで進みました。3年に1冊のペースで出していますが、1冊で約2ヶ月分しか進みません。現在、既刊は31冊。全部で何冊になるかまだ不明で、私の在職中は当然ながら、存命中にも終わらない大事業です。」
27年間史料を編纂して約1年分しか進まない?!
作業の大変さに度肝を抜かれた。
そしてこの方に書くものこそが、史料に忠実な信長像かもと。
「裏切られ信長」というタイトルからすると、
明智光秀を中心に描かれているのかと思ったら裏切られる。
半分超が浅井長政、武田信玄、上杉謙信、毛利輝元といった、
他大名との外交関係で裏切りに見舞われたことに焦点をあてる。
「すべての勢力と同盟関係を結んだり、ひとつの勢力だけに肩入れして、その考え方を変えない不器用さ、一本気な面。これは、ある意味誠実であるとも言え、相手によっては頼りがいのある存在とみなされることもあろうが、外交という局面における状況判断の甘さ、平衡感覚の欠如があると言われても仕方がない。また、裏切られるまで、その気配に気づかないという油断も特徴として見られる。これは裏返せば、相手が自分を裏切るとはつゆほども疑っていない、相手を心底信用しているということなのかもしれない。」
松永久秀、荒木村重など家臣に裏切られた際もその傾向があり、
裏切りの報を受けても本当?と本人に確認のための使者を送る。
「家臣謀反の知らせを聞いても、すぐには信用せず、いったん本人に直接確認しようとする。そのときに相手に伝えることばは、『不足があったら言いなさい。聞いてやるから』というもので、けっして高飛車に怒鳴りつけるのではない。」
近年の流行語「ブラック企業」になぞらえて、
織田家をブラック企業、信長をワンマン社長と捉えられがち。
でも史料を丹念に読み込む著者には違う信長像が見えていた。
今月末に同じ著者の新刊書「史料が語る信長の時代」が発売予定。
こちらも楽しみ。


コメント