かつて下村湖人「論語物語」に大変感銘を受けた。
論語の教えを物語として編集し、イメージ豊かに読むことができる一冊。
本質を深く理解した人にしか表すことができない素晴らしい仕事だった。
今日の一冊にもまた同様の感動があった。
言語学者が書いた人工知能論なのだが、寓話仕立てになっている。
そのおかげで「言葉が分かる機械」をめぐる
過去から現在までの論点が、すんなり頭に入ってくる。
おそらく中高生でも読むことができるレベルになっており、
この本と出会ったことで、未来の技術者が現れるかもしれない。
ちなみに主人公をイタチにしたのはユーモアで、
- モグラが作った言葉が聞き取れる機械
- アリが作った質問に答える機械
- フクロウが作った画像認識をする機械
などなどそれぞれの動物の作った技術を導入し、
自らが求める万能ロボを完成させようと試みるが、
次々と新しい課題が現れて「イタチごっこ」という意味だ。
言葉が分かる機械を実現するための下記のような論点が、
物語を通じて分かるようになっており、
言葉が分かる機械を実現するために必要な条件
- 音声や文字の列を単語の列に置き換えられること
- 文の内容の真偽が問えること
- 言葉と外の世界を結びつけられること
- 文と文との意味の違いが分かること
- 言葉を使った推論ができること
- 単語の意味についての知識を持っていること
- 相手の意図が推測できること
その条件を満たすための課題
- 機械のための「例題」や「知識源」となる、大量の信頼できるデータをどう集めるか?
- 機械にとっての「正解」が正しく、かつ網羅的であることをどう保証するのか?
- 見える形で表しにくい情報をどうやって機械に与えるか?
以上のような論点を示した上で著者はこうまとめる。
「大量のデータからの機械学習という現在主流の方法の延長線上で、言葉を理解する機械を実現することは、きわめて難しいと考えられます。」
最後に言葉を理解する機械の真の実現に向けて、
- 人間は生まれた後で接する言葉だけを手がかりにして言語を習得するわけではない
- 人間はどこかの段階で、言葉というものは、何かを表すものであると認識している
- 人間は他人の知識や思考や感情の状態を推測する能力を持っていること
といった人の思考回路を数理的に解明する必要があるとしている。
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