2018年から活動の「池谷脳AI融合プロジェクト」。
人工知能を用いて脳の新たな能力を開拓し、
脳の潜在能力は一体どれほどなのかを見極めること、
を目的としているという。
このプロジェクトの代表、池谷裕二氏と、
メンバーの紺野大地氏の共著が、
このプロジェクトの研究において、ネズミに「脳チップ移植」をすることで、
次のようなことが分かったという。
- 脳が生まれつき感じることのできない刺激でも、コンピューターや人工知能の力を借りれば、将来的に感じることができるようになりうる
- 脳はこれまで経験したことがない刺激に対しても素早く対応し、その情報を活用できる
何年か前にレイ・カーツワイルが脳とネット上のクラウドをつなぐことで、
私たちの知能が指数関数的な増加を遂げると予言していたと思う。
あの頃はモヤモヤ状態だったが、いよいよ形が見えつつあるということか。
またイーロン・マスクが2016年に設立した、Neuralink社の最新の動向が、
簡潔にまとめられていたのでメモしておくと、
2019年7月発表
- 髪の毛より細い電極数千本以上を脳に埋め込む(それ以前は多くても100本程度だった)
- それらの電極で脳波を記録する
- 1本1本の電極で脳を直接刺激することもできる
- これらをスマートフォンのアプリ上で操作できる
2020年8月発表
- 第2世代の電極デバイス(The LINK)が開発された(第一世代は頭蓋骨と耳の裏に穴→頭蓋骨のみ)
- 手術ロボットがアップグレード(あきらかに機械という見た目から柔らかみがある外観に)
- 豚の脳に電極を差し込み、脳波の記録に成功した
- アメリカ食品医薬品局(FDA)への申請が完了した(人間の脳に刺すためにFDAの承認が必要)
2021年4月発表
- 1024チャンネルの電極を埋め込まれたサルが脳波のみで卓球ゲームをプレイした
ただし現状では疑問点も数多く残り、
- サルは本当に念じるだけでカーソルを操作しているのか?
- 埋め込んだ電極の劣化を防ぐことができるのか?
- 脳深部の血管を避けて電極を踏め混むことができるのか?(表面の血管はすでに避けることができる)
- 刺せる部分は大脳新皮質だけなのか?(海馬や扁桃体は可能か?)
- 頭蓋骨に穴を空けずに済む方法はないのか?(穴から菌が入って髄膜炎などの深刻な感染症の恐れ)
このように脳研究が進む中での壁は、
「脳情報の読み取り」と「脳への情報の書き込み」を高い精度で行う技術にある。
とはいえ、かなりのスピードで研究が進んでおり、
集中的な資金投下により科学を加速できることが証明されたことは驚きであると。
最後に人工知能の書籍に決まって登場する問いを引用しておこう。
人間の役割を人工知能が少しずつ代替していくなかで、
最後まで人間の手に残るものはなんなのか?
「そのことを考えるときに参考になるのが、1997年にチェスの人工知能ディープブルーが、当時世界最強のプレイヤーであるゲイリー・カスパロフを打ち負かしたことです。カスパロフが負けるまでは、人間が決定的に優れているのは「知性」だと考えられていました。ですが、ディープブルーがカスパロフを打ち負かしたことで、人間は(少なくともチェスで必要とされる)知性においては、地球上で最も秀でている存在とは言えなくなりました。その後さらに人工知能の進歩が続くにつれ、最近では人間が秀でている部分は「感情や優しさ」だと言われるようになってきました。もしこの先、人工知能がさらに進歩して「感情や優しさ」をも身につけるようになったとしたら、次は「人間が人間たる理由」はどこに求められるようになるのでしょうか?」
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