鎌倉投信のファンドマネージャー新井和宏 氏の新刊を読んだ。
一番印象的だったのが、菓匠Shimizu(長野県伊那市)の紹介とともに語られる、
企業が事業の中で社会的な課題を解決するために必要な視点。
「お菓子を通じて、夢を届けること」を経営理念とする菓匠Shimizu。
家族間の悲惨な事件を減らすために菓子屋としてできることは何か?と考え、
子どもたちが描いた夢の絵を再現したケーキをつくってプレゼントする
「夢ケーキ」という取り組みをはじめた。
この試みが共感を呼び、全国規模の活動となり、ケーキの売り上げも伸びる一方。
本業を拡大解釈し、社会的な課題を事業に取り込むことで、事業を伸ばした例だ。
「(社会的な課題を) 自分ごとににする力とは本業を拡大解釈する力のことです。 世の中には、本業を「狭く」捉える企業がまだまだたくさんあります。効率を追い、最小の労カでお金というリターンを最大化するためには、本業を「ここからここまで」と狭く定義するほうがラクです。範囲を狭めるほど効率を上げやすくなるのは、投資も実際のビジネスも変わりません。
・・・
逆に本業を広く大きく捉えると、「菓匠Shimizu」のように、自然とファンが生まれます。社員からも地域からも愛される企業として、これからも「菓匠Shimizu」 は成長を続けていくはずです。」
世間では海外のお偉い学者が作った言葉や理論を使って、
事業の中で社会的課題の解決を!とコンサルを名乗る人々が数多い。
でもそれでは一般社員や中小企業の社長には少しも「自分ごと」にはならない。
伝わりやすい言葉で簡潔にまとめなければ意味がないのだ。
だから「本業を拡大解釈し、社会的な課題を自分ごとに」という表現に、
こうでなければ!となんだかスッキリした。
著者自らも取り組んでいるからこそ、こうした伝え方ができるのだろう。
また著者はかつて近江商人が唱えた
「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」
をアップデートした「八方よし」を提唱する。
※八方・・・社員、取引先・債権者、株主、顧客、地域、社会、国、経営者
「私がCSVと言わずに、「八方よし」という言葉を使うのは、わざわざ欧米の思想を借りずとも、「菓匠Shimizu」が示すように、日本には信頼や共感にもとづいた経営が脈々と受け継がれているからです。だから「三方よし」を発展させ「八方よし」の経営をすればいい。失ったものを取り戻して、それを時代の要請に合うようにアップデートすればいいのです。」
「海外で取り組みが進んでいるCSV」などと突きつけられると、
なんだか難しいものに思えて、身構える人も多いだろうが、
日本の歴史文化の延長線上にあるものだと伝えれば受け入れやすいだろう。
そもそも日本にはアメリカ建国以前から創業の企業が多い。
だからやみくもに海外の知をそのまま受け入れるのではなく、
日本にある既存の知と組み合わせて発展させるべきなのだ。
このように読み方によっては偽物のコンサルを見破る方法にも活用できてしまう。
鎌倉投信に関心を持つ投資家・経営者に限らず多くの方に手にとって欲しい一冊だ。
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