畳敷きの和室を語ることのできる最後のチャンス?/松村秀一・服部岑生「和室学」

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2013年にユネスコ無形文化遺産の登録された「和食」。
これに尽力した菊乃井の村田吉弘さんは、登録を喜ぶのではなく、
「遺産」ということは絶滅危惧種なのだという危機感を持つべき、
という話をよくされている。

ふと思えば和食よりも、さらに重篤な絶滅危惧状態なのが「和室」。
そんな危機感から和室の過去・現在・未来を11名の論者が語った一冊。

本書では冒頭に共著者たちの議論の前提として、
和室という空間を「仮」定義したことが示される。

日本の中で独自に成立し展開した部屋で、椅子等ではなく床に座る『床座』に対応し、畳の敷き詰められた部屋

私自身も生まれてからずっと都内のマンション暮らしだから、
畳の敷かれた和室は、広々とした一軒家の特権だったり、
旅先の旅館でしか出会うことのない贅沢品、というのが私の和室感。

また引っ越しを検討してマンションの情報を眺めていると、
築年数が20年以上で3LDK近い大きめの部屋になると和室があり、
築浅のマンションになるとすべて洋室でフローリングの印象だ。

そういえば不動産情報では、部屋全体の面積は「㎡(平米)」表示なのに、
各部屋の大きさは「J(畳)」と畳が何枚分かで表示されている。
和室は失われても、畳の記憶だけが残っている不思議な状態だ。

「1年間に生産される畳表総枚数は、バブル期に5,000万枚を超えたのをピークに、和室の減少により需要が大幅に縮小し、現在は5分の1に減少。さらにその内訳をみると、ピーク時には8割が国産で輸入が2割だったのに対し、今では国産が2割を切るほどに激減してしまっているのです。」

残念ながら以前のような「畳」の敷き詰められた和室は消えていくのだろう。

しかし和室の記憶という観点では、本書でも「床座回帰現象」が指摘されている。
洋室でソファーとカーペットを併用して、くつろぐ時間が長くなると、
足下のカーペットに座り込んで楽しむ家庭が多いらしい。

私自身も特に冬場は床に生息している時間が長くなる。
実家では子どもの頃から洋室に「こたつ」を置いて勉強していたし、
今の家では床暖房を付けて床に寝転んで本を読んでいる。

日本文化の伝統においては「和魂漢才」や「和魂洋才」はしょっちゅうで、
和室もまた固定した定義付けは難しいものなのだろう。

「和室=畳が敷かれている」の過去・現在を検証するには、
今がまさに最後のタイミングと考えられるので、ぜひとも読んでおきたい一冊だ。

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