伊勢物語の第4段の和歌といえば、
古今和歌集の恋五の巻頭にも採られた一首が有名。
月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ
わが身ひとつは もとの身にして
一般的に目にする伊勢物語は藤原定家(1162〜1241)が書写したもの。
定家と同時代の藤原為家(1198〜1275)が書写した伊勢物語もあり、
この異本の第4段にはこんな一首が残されているらしい。
梅の花 香をのみ袖に とどめおきて
わが思う人は 訪れもせぬ
その梅の香の記憶はそのままだが、想い人には会うことはできない。
新古今和歌集(恋歌五・1410)には在原業平の歌として収録されている。
平安時代の女性は摘み取った梅の花を袖に入れて香りを移す。
それが薫き物以前の香に関する女性の身だしなみだったようだ。
先日の古今集「誰が袖ふれし宿の梅」の一首で、
袖と梅と香がセットになっている背景が分かったのだった。
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