日本は古来より農業中心社会、というイメージは史料の読み違え!
という著者の指摘が、この本最大の見どころといえる。
歴史学者の間での「百姓=農民」という一般的な認識を元に
史料を読むと、江戸時代までの人口の8割は農民になってしまう。
でも、史料をていねいに読むと、「百姓」の小分類に「農人」「商人」「鍛冶」…
と分類されており、これまでの常識と違った社会の実態が浮かび上がる。
「鎌倉時代後半、13世紀後半以降の社会は、銭貨の流通が活発になり、信用経済といってもよいような状況が展開し、さまざまな形態の資本-金融資本、あるいは商業貿易資本、さらに土木建築に投資される大きな資本が動くようになっています。少し大胆にいえば、これは資本主義的といってもよいぐらいだと思うのです。」(P379)
金融の話題になると、日本は農耕民族でアングロサクソン系とは違うから、
みたいな話になりがちだけど、日本の方が資本主義国として先進国かも?
歴史の読み違えとは恐ろしい。
このほかに、決して男尊女卑ではなかった女性の歴史の記述もおもしろい。
日本の歴史をよみなおす (2005/07/06) 網野 善彦 商品詳細を見る |
網野氏が日本に貨幣が本格的に流通しはじめたと指摘する時期、
13世紀後半から14世紀前半は、ちょうど吉田兼好が生きた時代と重なる。
「徒然草」の第217段で大富豪の話として、
「人は、万をさしおきて、ひたふるに徳をつくべきなり。貧しくては、生けるかひなし。富める人のみを人とす。…銭を奴の如くして使ひ用いる物と知らば、永く貧苦を免るべからず。君の如く、神の如く畏れ尊みて、従へ用いる事なかれ。」
金持ちでなければ人間ではない。お金を神のように敬って、無駄に使ってはダメ。
そうやってお金を貯めることが、徳を貯めることになる、ってな話。
こりゃとんでもなく貨幣が珍しく、貴重とされた時代なんだなぁ、と分かる。
ちなみに兼好さんは、お金持ってても使わないなら貧乏と一緒じゃない、
「ここに至りては、貧・富分く所なし。…大欲は無欲に似たり。」と斬っている。
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