2016年5月に放送されたNHKスペシャル
「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」
この時の取材をもとに羽生さんが人工知能に迫った本が今日の一冊。
最近、人工知能に関する本が次々と出版されているが、
日本で最高の頭脳といっても過言ではないこの人の語りを待っていた!
私が10年来、追いかけている「学習の高速道路」に関わる記述もあったが、
それは毎年ゴールデンウィーク中に更新する記事に反映するとして、
ここでは棋士の立場から見た人間と人工知能の比較をまとめておこう。
人間と人工知能の違いは美意識
「私は、棋士が次に指す手を選ぶ行為は、ほとんど「美意識」を磨く行為とイコールであるとさえ考えています。・・・人間がどうして、いきなり90パーセントくらいの手を「直観」で捨てて、何万手という「読み」の方向性を、「大局観」で制御していけるのか。この大きな取捨選択の核となるものが、「美意識」なのです。」P75
「人間が「直観」「読み」「大局観」の三つのプロセスで手を絞り込んでいくとすれば、人工知能は超大な計算力で「読み」を行って最後に評価関数で最善の一手を選ぶという形になります。ここで人間にあって人工知能にはないのが、手を「大体、こんな感じ」で絞るプロセスです。棋士の場合には、それを「美意識」で行っていますが、人工知能にはどうもこの「美意識」にあたるものが存在しないようです。」P80
羽生さんはアルファ碁を開発するディープマインド社へ訪問取材し、
計算前に手を絞る手法が人間の直観に近いものを感じたものの、
その根底にある「美意識」が人間とは異なると考えているようだ。
人間の美意識はいかにして作られたか?
羽生さんは人工知能が美意識を持たないのは「恐怖心がない」からと仮説。
棋士が美しいと感じる手は、基本の形に近い見慣れたものだが、
人工知能がデータから導き出した最適解がその盲点を突くことがある。
「私には、人間の持つ「美意識」は、「安心」や「安定」のような感覚と近いしいものであると思えるのです。一方、ある局面で危険を察知すると、「不安」や「違和感」を覚え、どんなに上手な手に見えても打たなかったりする。」P81
また棋士が将棋ソフトの手に違和感を覚えるのは、
そこに秩序だった流れ、すわなち「時間」が感じられないからだと指摘。
「「美意識」に「時間」という概念を考慮すると、人間は、「一貫性や継続性のあるものを美しいと感じる」と言えないでしょうか。」P142
人工知能が美意識により狭められた人間の思考を開放するという期待がある一方、
社会に導入されていくことを考えると「恐怖心」や「時間」を身につけて、
人間の「美意識」に敵うかどうかがポイントだと羽生さんは指摘している。
そして発展を続ける人工知能との比較によって、
まだ未解明の「人間の知性とは何なのか?」という問いにも近づけるのでは?
そんな期待を込めて、末尾はこんな言葉でまとめられている。
「人工知能について知ることは、人間について深く知ることでもあるのかもしれません。」P217
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