今月のNHK「100分 de 名著」が、なんと我が愛読書「徒然草」。
これは私もテレビ番組に負けじと語らずにはいられない!
この作品の根底を貫く主題は「無常観」。
兼好「法師」とは呼ばれるが、彼の無常観は宗教的なものではない。
鎌倉末期から南北朝の動乱を目の当たりにした兼好は、
生きてある日は今日ばかりと、今この時を生きることにこだわった。
まったく同時代に、すでに生きる伝説だった禅僧・夢窓国師が、
「人の今生と思へるは、前世に後世と思ひし世なり。」(夢中問答集11)
と生死の境界線をあいまいに説いているのとは対照的。
兼好の死生観が現れた「徒然草」の該当部分を編集していくと、
「我等が生死の到来、ただ今にもやあらん。」(41段)
「若きにもよらず、強きにもよらず、思ひかけぬは死期なり。」(137段)
「生・住・異・滅の移り変はるまことの大事は、猛き河のみなぎり流るるがごとし。しばしも滞らず、直ちに行ひゆくものなり。」(155段)
人の死は思いがけず訪れるものだから、
「人は、ただ、無常の、身に迫りぬる事を心にひしとかけて、束の間も忘るまじきなり。」(49段)
私たちは常に死と隣り合わせに生きていることを忘れてはならない。
だが残念ながら、多くの者はそのことを忘れ、
「生を貪り、利を求めて、止む時なし。・・・常住ならんことを思ひて、変化の理を知らねばなり。」(74段)
「寸陰惜しむ人なし。これ、よく知れるか、愚かなるか。・・・刹那覚えずといへども、これを運びて止まざれば、命を終ふる期、たちまちに至る。」(108段)
「貪る事の止まざるは、命を終ふる大事、今ここに来れりと、確かに知らざればなり。」(134段)
お金を儲けようとか、人に好かれようとか、
くだらないことに時間を浪費しているうちに、人生を終えてしまう。
「大事を思ひ立たん人は、去り難く、心にかからん事の本意を遂げずして、さながら捨つるべきなり。」(59段)
だから、もしも今、あなたの胸の内に成し遂げたいことがあるのなら、
気になることがあっても躊躇してはいけない。今すぐ、はじめよう。
「死を憎まば、生を愛すべし。存命の喜び、日々に楽しまざらんや。」(93段)
死を悟ったときに目に映る世界は、どんなに美しく、愛おしいものだろうか。
今こうして生きていられる喜びを日々かみしめよう。
このように語った兼好自身は、存命中は何者にもなれなかった人物。
しかし、彼と同じような死生観を持ち、世界を変えた偉人が現代にいた。
「今日が人生最後の日だとしたら…」と問いかけたスティーブ・ジョブズ。
“I’ve looked in the mirror every morning and asked myself: “If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?” And whenever the answer has been “No” for too many days in a row, I know I need to change something.“
膵臓がんの手術以降、いつ燃え尽きるか分からない自らの命。
その焦燥感、切迫感が、iPhoneやiPadの誕生を後押ししたに違いない。
もしジョブズの生き様に共感したのなら、「徒然草」をオススメしたい。
コメント
こんにちは。
S. Jobs のスタンフォード大スピーチを聞いて、徒然草を思い出していました。
>もしジョブズの生き様に共感したのなら、「徒然草」をオススメしたい。
ほんとうにそう思います。
英語や中国語に精通した方に「徒然草」に反応していただけて嬉しいです。
「グローバル化」という言葉に対する一般的な日本人の姿勢は、日本の外ばかりを見てキョロキョロ。本当のグローバル化とは「グローバル」と「ローカル」が同時に動く、いわば「グローカル」でなければいけないのだから。