なぜ真実が軽視されるのか?/リー・マッキンタイア「ポストトゥルース」

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ポストトゥルースとは?

オックスフォード大学出版局辞典部門が、
ポストトゥルースpost-truth”」という言葉を、
2016年の「今年の一語」にノミネートし、その意味を以下のように説明。

「公共の意見を形成する際に、客観的な事実よりも、感情や個人的な信念に訴える方が影響力のある状況を説明する、ないしは表すもの」

定義は分かった。
ではなぜ今、これが注目される現象となっているのか? 
そこに焦点をあてた一冊が、

原著は2018年に、日本語訳が2020年秋に出版された。
ちなみに2016年に注目用語になった背景は、
イギリスのEU離脱・アメリカ大統領選挙(トランプ当選)にある。

タバコ産業の悪しき戦略の魅力

科学的事実をあえて否定することで利益が得られる
そんな悪しき戦略を広めるきっかけとなったのがタバコ産業。
1969年にタバコ会社の重役が書いた悪名高い社内メモ。

「疑いはわたしたちの商品なのです。なぜなら、それは一般大衆の心のなかにある「一連の事実」に対抗する最良の手段なのだから」

そして主な戦略は次の4つ。

  • 専門家を見つけ資金を提供すること
  • この専門家を使って物語にはふたつの側面があることをメデイアに示すこと
  • 宣伝活動と政府へのロビー活動を通じて自分の立場を押し出すこと
  • その結果として生じる世間の混乱を利用して反駁したいあらゆる科学の成果に疑いを突きつけること

この戦略により喫煙と肺がんの関係を煙に巻いて、多大な利益をあげ続けた。
これが科学的事実に対抗する、企業の戦略のお手本となってしまい、
以後、酸性雨、オゾンホール、地球温暖化といった事柄にも利用されていく。

わたしたちの認知バイアス

上記のような悪しき戦略だけではなく、情報を受け取る私たちの側にも問題がある。
本書では登場しないが、一言で簡単にまとめてしまうなら、
ユリウス・カエサルが残したとされる至言「人は自分の見たい現実しか見ない」。

著者が着目した心理学の研究は、

  • バックファイアー効果(the backfire effect)
  • ダニング=クルーガー効果

バックファイアー効果

特定の思想を支持する人が、自分の信念が間違っているという証拠を示されると、
その証拠を拒絶し、誤った信念を「倍増させる」、
すなわち、誤りを訂正することが裏目に出てしまう(backfire)。

ダニング=クルーガー効果

能力に乏しい人物がしばしば自分自身の能力不足を認識できない。
つまり、私たちは自分のことを愛するあまり、自身の弱点を直視できない。

損切りできない投資家心理

余談だが投資家として成否を分けるといっても差し支えない、
損切りできない投資家心理」をいかに制御するか?という話にもつながる。

投資後にその企業の株価が下がりはじめると、
業績悪化が見込まれるような情報は見なかったことにして、
自分の期待に合う情報ばかり集めて、視野が狭くなっていく。
そんなことをしているうちに、どんどん損失が広がってしまう。

思考を停止させるニュース配信とSNS

インターネットによって容易に(かつ安価で)ニュースを手に入れられるようになったが、
専門的調査と編集の凋落した状態で、どの記事が信用できるのか判断しようがない。

またSNSに答えを求めれば、自分の好みや期待を補強するような仕組みになっているため、
私たちの批判的に思考する能力が低下してしまったのではないか。

これがポストトゥルースが出現するための肥沃な環境を作り出したのでは?

しかしこれに対する著者の解決策がパッとしない。
正確な報道内容を提供する調査報道組織が不可欠で、
それを支えるには私たちが無料のニュース記事に頼らないことだと説いていた。

ポストトゥルース
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