「統合失調症」が「精神分裂病」と呼ばれていた時代の一冊、
- 中井久夫「分裂病と人類」(1982年出版)
ここで語られている話が現在どう言われているかは分からない。
でも狩猟社会から農耕社会への移行が分裂病の原点という指摘はおもしろい。
「狩猟採集民においては、強迫性格もヒステリー性格も循環気質も執着気質も粘着気質も、ほとんど出番がない。」
「狩猟採集民の時間が強烈に現在中心的・カイロス的(人間的)であるとすれば、農耕民とともに過去から未来へと時間は流れはじめ、クロノス的(物理的)時間が成立した。農耕社会は計量し測定し配分し貯蔵する。とくに貯蔵、このフロイト流にいえば「肛門的」な行為が農耕社会の成立に不可欠なことはいうまでもないが、貯蔵品は過去から未来へと流れるタイプの時間の具体化物である。その維持をはじめ、農耕の諸局面は恒久的な権力装置を前提とする。おそらく神をも必要とするだろう。」
少し意味が取りにくかったのだが、農耕社会は狩猟社会と違い、
貯蔵や配分など将来のための計画性や管理能力が重要になり、
将来に対する悩みが増えたのが、強迫的な神経症の前兆ということのようだ。
そういえば古典には「今この時に目を向けよ!」を訴えるものが多い。
- 荘子「不測に立ちて無有に遊ぶ」(16/11/25)
- 生きてある日は今日ばかり/徒然草の死生観(12/01/06)
- 道元の時間論/正法眼蔵・現成公案(12/02/26)
もしかすると将来のことばかり考えていると病気になってしまうよ、
というメッセージも含まれていたのかもしれない。
世間では夢や目標を持つことが美徳とされ、
それに向かって突き進むのが人生のあるべき姿と捉えられがちだ。
ゆえに心に問題を抱える人が増えて当然ということだろうか。
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