中心を持たない国/河合隼雄「中空構造日本の深層」

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日本の歴史文化の特徴として「中心がない」ことが指摘されることが多い。

心理学者、河合隼雄もまた「古事記」を読み込むことで、
同様の考えに辿り着いたことが「中空構造日本の深層」に記されていた。

わが国が常に外来文化を取り入れ、時にはそれを中心においたかのごとく思わせながら、時がうつるにつれそれは日本化され、中央から離れてゆく。しかもそれは消え去るのではなく、他の多くのものと適切にバランスを取りながら、中心の空性を浮かびあがらせるために存在している。このようなパターンは、まさに神話に示された中空均衡形式そのままであると思われる。

中心が空っぽである例として、たびたび同じことを書き留めてきたが、
日本の神様の性質と神社へお参りする感覚が一番説明しやすい。

日本の神様は常駐する神ではなく、たまにやってくる来訪する神。
そしてやってきた神様が泊まる仮の宿が神社だ。
そんな神社で私たちは神様が来るかもしれない空っぽの中心に、
自分の願いや想いを投げ入れて帰ってくる、という参拝をする。

何もないからこそ、何かで満たされる可能性が残されている。
それが日本の強さであり、危うさでもある。

中心が空であることは、善悪、正邪の判断を相対化する。統合を行うためには、統合に必要な原理や力を必要とし、絶対化された中心は、相容れぬものを周辺部に追いやってしまうのである。空を中心とするとき、統合するものを決定すべき、決定的な戦いを避けることができる。それは対立するものの共存を許すモデルである。

表裏・白黒・善悪に境界をひかずに矛盾を抱えたまま走り、
そしてその「間」から新しいものを生み出すのが日本の特徴。

これまで書き留めてきた文化的な例を挙げると、

  • 日本語の成り立ち…文字を手に入れるべく漢字(真名)に取り組んでみたら、ひらがな(仮名)が生まれた
  • 神仏習合…「神」と「仏」に優劣をつけず、神宮寺や神前読経で一体化
  • 歴史認識…「冥」と「顕」のせめぎ合いの中で歴史が生まれる(慈円「愚管抄」
  • 主客未分…主客の関係のあいまいさや入れ替わる伝統

近年ではハイブリッド車がその成功例と言えるだろうか。
これからの車はガソリン車(ディーゼル車)か?電気自動車か?
と欧米が二元論に終始している隙にトヨタがプリウスを発売したように。

もちろん良い面ばかりではなく、その最悪の例がおそらく太平洋戦争。
権力の中心に天皇がいるようで実は権力を持たないという中空状態が、
軍部にうまく利用されたか、誰が決断したわけでもなく雰囲気で、
戦争へ流されてしまったように思えるところもある。

また日本企業は長期的ビジョンがないと批判されることがあるが、
このあたりの文化的な背景に由来するのではないだろうか。

まずは上記のような構造を意識することが大切なのだと思う。
今の日本は良い面も悪い面も同時につぶそうとしているように思えるから。

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