恋ゆえに気付く、命の尊さ/百人一首50「君がため…」

百人一首の恋の名歌は?と聞かれて。
私が好きなのは陽成院の歌(13)とこれ!

君がため 惜しからざらし 命さへ
長くもがなと 思ひけるかな

もし君に会えるのなら、
命も惜しくないと思っていた。
でも、君に会えた今…、
いつまでも一緒にいたいと願っている。

藤原義孝(954~74)が初デートの後に贈ったラブレター。
藤原氏の歴史物語「大鏡」にはその人物像が描かれており、

御容貌いとめでたくおはし、年頃きはめたる道心者にぞおはしける。

美男で若者には珍しく仏道に精進する人物と賞賛されており、
とある夜、宮中を退出した彼の後をつけていくと、
満開の梅の下でお経を暗唱していた逸話が紹介されている。
月の光を浴びたその姿は、神々しいほど美しかったと。

また仏教的な無常観を色濃く反映した和歌も多く残していて、

思ひつつ まどろむほどに 見るよりも
かかるうつつぞ はかなかりける

命だに はかなはかなも あらば世に
あらばと思うふ 君にやあらぬ

いつまでの 命も知らぬ 世の中に
つらき嘆きの ただならぬかな

自分の命が短いことを悟っていたのだろうか(享年21歳)。
そんな背景を踏まえて、百人一首に戻ると実に深い。

話は変わりカルタ取りとなるとやっかいな一首。
「君がため」で始まる和歌がもう一首あり、

君がため 春の野に出でて 若菜つむ
わが衣手に 雪は降りつつ

うっかりどちらかを忘れてしまうとお手つきの危険。
「君がため」ではなく「自分が勝つため」に大事!(笑)