三宅香帆「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」。
タイトルの問いの答えをすごく簡潔にまとめると、
今は仕事で自己実現が重視される時代だから、
仕事に関係がありそうな知識に最短で辿り着きたい。
だから余計な情報が多い読書に時間を充てることができない。
私たちが自己啓発の手段として求めるものが、
読書が有効だった「教養」から「情報」に変わったのだ。
これまで読書離れについて、いろいろな見解が示されてきたが、
労働や自己実現からの切り口が新しかったように感じた。
でも読書離れって本当に起きているの?と疑問に思うこともある。
2024年の本屋大賞(全国の書店員が投票で選ぶ)に選ばれた、
宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」が爆発的な売れ行きで、
舞台となった大津市に聖地巡礼に訪れる読者までいるとか。
しかも小説を読むことは仕事とは無縁の完全な娯楽。
出版市場全体の推移を見ると(※出版科学研究所ウェブサイト)、
1996年の2兆6,564億円から右肩下がりだったが、
電子書籍の統計が加わった2014年以降は約1兆6,000億でほぼ横ばい。
また図書館の利用者統計によると、
昔と比べて本を借りている人がかなり増えている。
ちなみに私が図書館で借りる際の本の選び方は、
買って今すぐ手元におきたい(狭い本棚のスペースは貴重)、
と思える本ではないけれど、なんとなく気になる本を借りる。
偶然の出逢いを誘発するために図書館を利用しているのだと思う。
脱線しかかったので話を元に戻すと、
唯一、読書離れが確認できる統計データは書店数の推移。
書店数が減り、1店舗あたりの面積が増えているのは、
小さな街の本屋が閉店し、大規模書店が生き残っているということ。
これを裏付ける別のデータとして出版文化産業振興財団によると、
書店が1つもない自治体は全国で27.7%、1つしかないのは47.4%。
書店がなくなることで、読書が縁遠くなることはあるだろう。
いずれにせよ、読者の側からすると、
世間で言われる読書離れが起きているかなんとも言えない。
ひとつハッキリしているのは、
働いていると本が読めないのはみんな一緒だから、
私も読まなくて平気、なんて考え方は危険ということだろう。
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