フランス史においてレストランがどのように生まれたのか?
食に関心のある方なら、フランス革命によって、
貴族のお抱え料理人が食を失い、街でレストランを開いた、
というような話を読んだり、聞いたりしたことがあるのでは?
でも、レベッカ・L・スパング「レストランの誕生」には、
その通説?とは違う歴史が描かれていて、へぇー!と思った。
フランス革命は1789~95年だが、
1708年の辞典に「レストラン(restaurant)」の項目が登場。
ちょっと意外な解説がされている。
「病気や疲労により減退した体力を回復(restaurer)させる食物あるいは薬。シャコのコンソメやエキスはすぐれたレストランであり、ワインやブランデー、その他の気付けの飲み物も、精神が疲弊した者にはみな好ましいレストランである。」
そしてもう一つ、1773年の辞典で掲載された、
「レストラトゥール(restaurateurs)」の記述は、
「レストラトゥールとは、レストランあるいは王のブイヨンと呼ばれる正真正銘のコンソメを作る技量を持ち、あらゆる種類のクリーム、米やヴァーミセリのスープ、新鮮な卵、マカロニ、鶏の煮込み、ジャム、コンポート、その他健康に良い洗練された料理を売る権利を持つ者のことである。」
レストランはフランス革命以前の健康志向から生まれたものだった。
すでに存在していた料理店との差別化は、健康を強調したほかに、
料理の提供のされ方に大きな違いがあった。
- 従来の料理店は大テーブルに相席して、客にメニューの選択の余地なく大皿料理が提供される形式。
- レストランはメニューから自由に料理を選ぶことができ、一人ひとりに料理が運ばれる形式。またメニュー表に価格を明記したのもこの頃がはじまり。
ただ当初はフランスの知識人の間では批判する声も多かった。
ヴォルテール(1694~1778)は、コンソメスープを、
ありのままの食材を食べるほうがいいのに、
それを包み隠し、偽装したようなものだと批判。
ルソー(1712~78)は「エミール」(1762)の中で、
料理に施された装飾は、満幅の者をさらに食べる気にさせ、
かつては存在した欲望と必要の融和を破壊するものと批判。
当時の知識人にとっての論点は、
- コンソメスープは人類の進歩にふさわしい料理なのか?
- 料理が芸術や科学の領域に踏み入れることは正しいのか?
というものだったが、
フランス革命を経て徐々に受けられていき、
- グリモ・ド・ラ・レニエール「食通年鑑」(1803~12)
- ブリア・サヴァラン「美味礼讃」(1825)
というような美食を論じた名著が生まれていく。
ただ当時のレストランについての記述の多くで、
料理そのものについて触れられることは少なく、
もっぱら部屋の調度品について論評されたものが多いのだとか。
本書は18、19世紀の記述がメインになっているため、
私たちのイメージするフランス料理には近づいていないけど、
レストラン文化が広がっていく過程が面白い一冊だった。
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