夜空の星々に立ち上がる勇気をもらう

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東日本大震災の夜、多くの被災者が満天の星空に励まされた。

そんなテレビ番組を見て、なにかで同じような話を読んだような…、
と探していた本がようやく見つかった。

伊勢湾の海辺に居を構えていた俳人の山口誓子(1901~94)が、
死者・行方不明者478名の被害を残した1953年の台風13号
による高潮からなんとか生き延びて、午前3時半に見上げた夜空。

「外はすごい月夜で、潮は遠くまで退いていた。直ぐ眼の前に大犬座のシリウスがきらきらかがやき、その上にオリオン星座か勿体ないくらい美しく見えた。それ等の美しい星座を見たとき、私は台風に生命を脅されたことをうち忘れ、自分の家がどんなにひどい被害を受けていても、堪えられると思った。事実、鎖して置いた雨戸が一枚もない自分の家に踏み入って、高波の荒らし去ったあとを見たとき、私は自らを失わなかった。星座のひかりはしずかに強く私を励ましたのである。」

どうにもならない不運に見舞われた時、
ふと見上げた夜空の星の光に導かれ、再び前を向く。
古典の中にもそうした例を見つけることができる。

源平合戦で恋人を失い、悲嘆に暮れる著者がふと見上げた夜空に感動し、

「空を見上げたれば、ことに晴れて、浅葱色なるに、光ことごとしき星の大きなる、むらなく出たる、なのめならずおもしろくて、花の紙に箔をうち散らしたるによう似たり。今宵はじめて見染めたる心地す。」

以後、星を題材にした歌を次々と詠み上げていく。
亡き人を想いながら、星空を見上げて詠んだ歌が多いように思える。

夜空の星々に立ち上がる勇気をもらう。
もし古くからそんな慣習があったとするのなら、

ビルが林立しネオンがまぶしい、星空と縁遠い現代は、
立ち直りが難しい社会なのかもしれない。

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