今年9月に発売された、小林俊行「地力をつける微分と積分」。
東京大学の文科1、2年生向けの数学の講義で、
壁際に立ったり、床に座ったりする学生がいるほど超人気。
- 立ち見・床座りでも聴きたい、数学の講義(Researchmap)
私は高校生の文理選択の時、迷った末に文系へ進み、
数学に苦手意識はなかったので、読みたい!と手に取ったのだが…。
微分・積分の本論に辿り着く前のところで挫折しそうになっていた。
そんな時、rennyさんからご紹介いただいた楠木建さんのコラム。
幸せの感じ方の違いを微分派と積分派に分けて説明していて、
「微分派」というのは、例えば何かを達成したとか、乗り切ったとか、自分の評価が上がったとか、比較的近いところでの二地点間の変化を見て、その大きさに幸せを感じるタイプです。「積分派」というのは、その変化率よりも、過去から全部累積したときの面積の大きさに幸せを感じるタイプです。もちろんこれは善し悪しではなくて、人間のタイプの違いだけなのですが、幸福を積分した値の大きさで求めていく人と、微分した値の大きさで求める人に分かれると考えています。
数学を使ってきれいに語っているなぁと感じた一方で、
遠い過去の記憶では、微分と積分は相互補完の関係だったような。
この2つを切り分けて語ることは数学的に正しいのだろうか?
という疑問が沸き起こってきた。
もっと簡単な微分・積分の本を読み、
長い眠りについている数学脳を目覚めさせた上で、
東大数学に再挑戦しよう!と気合を入れ直した。
まず読み終えたのは以下の2冊。
前者は学習塾の先生、後者はクオンツが著者。
2冊で語られた微分・積分の役割をざっとまとめてみると、
永野裕之「ふたたびの微分・積分」
- 微分は関数の最大値や最小値を求めたり、近似値を求める時に力を発揮する
- 微分と積分は互いに逆演算の関係にある
- 微分は「微かなものに分ける」、積分は「分けたものを積み上げる」
- 物理学はもちろん、経済学、社会学、生態学でも、何らかの要因によって変わりゆく現象を解き明かそうとする立場にある人は、必ず微分方程式と向き合うことになる。
冨島佑允「見るだけで分かる微分・積分」
- 微分・積分は未来を予測するための数学。微分で小さな変化を捉え、その変化を積分で積み重ねて、未来を予測する。
- 道路のカーブの微分・積分。ドライバーが一定のペースでハンドルを切りながら走行する場合、その瞬間瞬間の進む方向を計算(微分)。その結果として車がどういう軌跡を描くかを計算して(積分)、道路の形状を決めることで事故が減る。
- 天気予報の微分・積分。大気を格子状に細かく切り分け(微分)、それぞれの気圧や気温、湿度を計算。その結果を足し合わせて(積分)、天気を予測している。
- 惑星探査の微分・積分。ツィオルコフスキーの公式に基づいてロケットの推進方向や速度を制御し(微分)、それをどのように変えていけば目的地に辿り着くかを算出(積分)。
このほかにも未読の図書館で借りてきた本があるけど、
現時点では、微分と積分の間に境界線を引いて派閥化する、
という比喩表現は数学的な本質からはズレているように思う。
すぐには分からない難しい課題に出会ったとき、
- 考えやすい単位に細かく分けて分析したうえで(微分的な思考法)
- それらの分析を集約して、全体を考える(積分的な思考法)
という話なら納得できるかな。
自分が過去に触れたことがあるけど忘れてしまったり、
理解できずに断念したものを、誰かが軽やかに扱うのを見ると、
「おぉー凄い!」と感心して、そのまま受け入れてしまいがち。
でも鵜呑みにせずに「本当にそうなのか?」と疑って、
自分なりに考えることの大切さをあらためて実感したのだった。
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