今日は兼好法師が大富豪に聞いた億万長者になる方法を紹介したい。
平清盛が日宋貿易に力を入れた頃から、貨幣(銅銭)が日本に流入。
兼好の生きた14世紀前半は、貨幣経済が本格的にはじまった頃なんだよ。
では徒然草の217段を読んでみよう。
「人はよろづをさしおきて、ひたふるに徳をつくべきなり。貧しくては生けるかひなし。富めるのみを人とす。」
人はとにかく金持ちを目指すべき。
貧乏人は生きている価値がない。金持ちだけが人間だ。
と大富豪は5ヶ条の心構えを説く。
- 人間常住の思ひに住して、かりにも無常と観ずることなかれ。
- 万事の用をかなふべからず。
- (銭を)神のごとく畏れ尊みて、従へ用いることなかれ。
- 恥に臨むといふとも、怒りを恨むることなかれ。
- 正直にして約を固くすべし。
この世は無常などと悟らず、すべての願いが叶うと思うな。
お金を神様のように大切に敬い、無駄遣いをしてはいけない。
屈辱に耐え、正直に生き、約束を守りなさい。
「この義を守りて利を求めん人は、富の来たること、火のかわけるに就き、水のくだれるに従ふがごとくなるべし。銭積りて尽きざる時は、宴飲・声色を事とせず、居所を飾らず、所願を成ぜざれども、心とこしなへに安く楽し。」
5ヶ条の心構えを守った上で利益を追求すれば、自然と金持ちになれる。
欲を捨てれば、願いは叶わずとも、心安らかで楽しいものなのだ。
まず驚いたのは、14世紀の時点でこんなこと説く人が日本にいたこと。
フランクリン(→幸福になるための13の徳目)は18世紀の人だったし、
「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」は1905年に発表。
マックス・ヴェーバーが西洋の資本主義発展の原動力として説いた、
禁欲と労働、蓄財のカルヴァン派の精神に通ずるものが日本にもあった。
カルヴァンの予定説と徒然草の「人間常住の思ひ」なんてのも似ている。
さて、ここで終わらないのが徒然草。
兼好法師は「なんか言ってることおかしくないか?」とツッコミを入れる
「そもそも人は、所願を成ぜんがために、財を求む。銭を財とする事は、願ひをかなふるがゆゑなり。所願あれどもかなへず、銭あれども用いざらんは、全く貧者とおなじ。何をか楽しびとせん。このおきては、ただ人間の望みを断ちて、貧を憂ふべからずと聞えたり。・・・ここに至りては、貧富分く所なし。」
そもそも人は願いごとを叶えるためにお金を欲しがるんでしょ?
欲を捨てて、お金を使わない? 何なのこの5ヶ条の心構えって?
これじゃお金持ってるだけで、貧乏人と変わらないさ。訳分かんない!
この徒然草217段は、貨幣経済への批判が含まれた興味深い一節。
蓄財は現在と未来の貨幣価値が同じことが大前提だったりする、
兼好法師が一番嫌った、世の無常から目を背ける行為だもんね。
そしてお金というものは、「稼ぐ・貯める・殖やす」ことは意外と簡単で、
本当に難しいのは「使い方」なんだよなぁ…としみじみ思うのだった。
※関連記事…兼好が理想とした金銭感覚-徒然草60段
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