地平線から顔を出したばかりの月が大きく見えるのはなぜか?
古代より議論されてきたが未だに解明されない謎だという。
「ムーン・イリュージョン」なんて美しい問題名がつけられて、
天文学や物理学はもちろん、心理学にまで論点が多岐に渡っている。
以下に代表的な説を書き出してみたが、月の謎を通じて、
心と天空がつながっているように思えるのがおもしろい。
天の原 ふりさけみれば 春日なる
三笠の山に いでし月かも
阿倍仲麻呂の有名な一首も、普段より大きく見えた月ゆえに、
ふるさとを思い起こした、と考えてみるのも興味深い。
大気屈折説
古くはアリストテレスにはじまる「大気の屈折」が原因だという説。
「遠くにある濃密な大気は、東風があるときに海上の岬が隆起して見えたり、すべてのものが異常に大きく見えたりするように、通常は鏡のようにはたらく。このことは、霧や黄泉の中で見られる対象にもあてはまる。たとえば、上ったり沈んだりする太陽や星は、それが最頂点にあるときよりも大きく見える。」(アリストテレス)
「天体が地平線において大きく見えるのは事実である。しかし、それは、天体までの距離が短くなるからではなく、地球を取り巻く湿った大気のためである。」(プトレマイオス)
ただ屈折は地平線上の月のゆがみの説明であって、拡大の話ではないような?
空気遠近説
大気の違い、霧や靄(もや)などによって見え方が変わるという説。
「霧を通して観察された対象は、遠くにある対象と色が似ているが、その対象は、おなじ縮減過程をかぶらないので、その大きさが大きく見える。」(レオナルド・ダ・ヴィンチ)
「日と月のあいだにある大気の量は、月がもっとも高く昇ったときよりも、水平方向に位置しているときに、はるかにおおい。そのため、水平方向の月の姿は弱々しく、それゆえにその状況の月は、最高点に昇った月あるいは地平線よりも上にあるどのような月よりも、大きく見えるということが起こる。」(ジョージ・バークリ)
地平線から顔を出したばかりの月が赤みを帯びているとき、
大気により赤の波長が増加し、大きく見える可能性はある。
眼球運動説
瞳孔の開き具合の差や不十分な焦点調節など、
私たちの目の動きに原因があるのでは?
と迫ろうとしたむきもあったが、確証は得られていないようだ。
比較説
地平線の近くの月は、建物や木々などと比較してしまい、
ついつい月を大きく見てしまうという説もある。
「大小を見分ける作業は、私たちが大小の考えを形成しなければならない対象の大きさよりも、私たちにいっそうよく知られている他の大きさに関連づけて、たいてい対処されるという考えが頭に浮かんでくる。」(ベネデット・カステリ)
これと似たものでは輝いているものが大きく見える説も。
「輝いている対象がなぜ大きく見えるかと言えば、私たちが物の大きさに関して行う推定が、距離の推定に依存するという事実にあるだけでなく、対象が眼底においていっそう大きい像を刻印するという事実もある。」(デカルト)
つまりは私たちの錯覚を原因とする説だ。
天空扁平説
11世紀アラブの科学者イブン・アル・ハイサムが提唱したとされる。
天空の知覚された形が半球状ではなく、平らなドーム型、
すなわち扁平になっていることから、錯視が起きるとする説。
この説は20世紀前半に人気だったようだが、説明を読んでもよく分からない。
天空が扁平であるなら、天頂より地平線の方が遠くに感じられるということで、
地平線付近の月が小さく見えるというなら分かるのだけど…。
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