京料理までもがファッションフード化?/畑中三応子「ファッションフード、あります。」

この記事は約3分で読めます。

先日紹介した本は、純粋に味覚を楽しむ美食行為ではなく、

SNSで自慢したいだけのグルメが増えた弊害を描いたもの。

しかし1970年代以降の日本人の「食」に対する姿勢が描かれた本を読むと、

流行の洋服を身につけるのと同レベルの消費がされてきたことが分かる。

戦後の空腹の時代には「量」が重視され、

高度経済成長期には食べ物の質、とくに栄養に注目が集まった。

そして1980年代以降のバブル期には、食べ物から情報だけが分離して、

食の情報そのものがファッションとして享受される時代へ突入していく。

著者がファッションフードの代表例としてあげているのが「ティラミス」。

1990年2月に雑誌「Hanako」が取り上げたのを機に大ブームに。

ティラミスは本来、イタリア産のフレッシュチーズ「マスカルポーネ」で作るが、

当時のティラミスのほとんどは「マスカポーネ」という疑似チーズで作られていた。

ゆえに本物の味にはほど遠く、

「いま都会的な女性は、おいしいティラミスを食べさせる店すべてを知らなければならない」(Hanako)

「ティラミス知らないで女をくどけるか!」(週刊テーミス)

といった情報に扇動されて、流行ファッションを追いかけるようなものだった。

味より情報、食べ物そのものより物語がファッションフードの真髄なのである。

こうしたファッションフードの系譜にSNSでのグルメ自慢があると考えれば、

すでに文化として定着しており、もはや止めることはできないのだろう。

ただ奇妙に感じるのは、

柏井壽グルメぎらい
では、

京都の高級割烹店にまで、この波が押し寄せていると指摘されていること。

これまでのファッションフードは誰もが手を出せる価格帯だったはず。

もしかすると今は空前の好景気なのだろうか?

だが内閣府発表のGDP「家計の目的別最終消費支出の構成」を確認しても、

宿泊と合算された「宿泊・外食」のデータにはなるが、支出額は増えていない。

むしろリーマン・ショック以前より約1兆円減少し、そのまま横ばい状態だ。



外食にお金をかける人とそうでない人との間の差が広がったのだろうか?

成金プチセレブは見せびらかすのが大好きな印象があるので、

グルメ自慢の高級店への進出は、経済格差の広がりを象徴する出来事か?

外食への支出全体が伸びない中で、グルメ自慢の成金を拠り所にして、

  • 料理の提供価格の上昇
  • 若手料理人の独立開業の増加
  • 既存店舗の移転・拡大

という動きになっているのだとしたら、

この業界の行先には急な崖が待っている可能性がある。

ファッションフード、あります。 (ちくま文庫)
筑摩書房
¥1,100(2024/04/20 06:48時点)

グルメぎらい (光文社新書)
光文社
¥858(2024/04/20 06:48時点)

コメント