春すぎて 夏来にけらし 白妙の
衣ほすてふ 天の香具山
持統天皇(645~702)の一首で、万葉集(巻1・28)に収録されている。
この時代の都は現在の奈良県橿原市の藤原京にあり、
そこから東に香具山、北に耳成山、西に畝傍山の大和三山が連なる。
香具山に干された白い洗濯物を見た天皇が夏の到来を感じる歌だが、
この山の由来を知るとなんだか不思議な気がしてくる。
「伊予国風土記」逸文には、天から降ってきた山が2つに割れ、
片方が「天の香具山」、もう片方が伊予の「天山」であると記されている。
「郡家ゆ東北のかたに天山あり。天山と名くる由は倭に天の加具山あり。天ゆ天降りし時ふたつに分かれて、片端は倭の国に天降りき。片端はこの土に天降りき。因りて天山といふ、本なり。」
ゆえに万葉集(巻3・260)のなかでは、
「天降りつく神の香具山」と詠われた一首もある。
そんな神聖な山に洗濯物を干していいのだろうか?
ちなみにここまで辿るとさぞかし高い山なのだろうと想像するが、
大和三山の標高はいずれも100m台で、香具山は約152mと小ぶり。
アメリカで万葉集を学び、奈良へやってきたリービ英雄が、
丘のような山に衝撃を受けたという話を何かで読んだ。
私もこの地を訪れて、万葉人の想像力に触れてみたい。
最後に持統天皇が詠んだ万葉集の和歌をもうひとつ(巻2・161)。
北山に たなびく雲の 青雲の
星離れ行き 月を離れて
青雲は亡き天武天皇、星は皇子、月は自らを重ねた歌。
以前調べたことがあるが、星を詠った和歌は数少ない。(→該当記事)
天体観測の記録としても貴重とされる藤原定家の「明月記」。
そんな定家が百人一首にこちらの歌を選ばなかったのも不思議だ。
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