塩見一仁「狛犬誕生」。
図書館でふと手にとった狛犬マニアの高校教師が書いた一冊。
高麗犬とも書かれることのある狛犬は、
6世紀に仏教伝来と共に仏の守護獣「獅子」として日本に伝わった。
枕草子の狛犬
文学の中には平安時代から現れ始め、たとえば清少納言「枕草子」では、
「獅子、狛犬、大床子などもてまゐりて、御帳の前にしつらひすゑ、内膳、御竃わたしたてまつりなどしたる。」(92段・めでたきもの)
「おはしましつきたれば、大門のもとに高麗唐土の樂して、獅子狛犬をどり舞ひ、笙の音、鼓の聲に物もおぼえず。」(259段)
と置物としての狛犬や、獅子舞・狛犬舞の話が登場する。
ちなみに同時代の紫式部「源氏物語」には一切登場しないらしい。
著者は平安時代の文学に登場する狛犬を以下のようにまとめる。
- 天皇や后の御帳台の前には獅子・狛犬が置かれている
- 特に立后の儀式の際には、獅子・狛犬が蔵人所から渡され御帳の前に据えられる。
- 新帝の即位の際にも、獅子・狛犬は天皇の権威の象徴として引き継がれる。
- 平安時代の文学で最初に獅子・狛犬が登場するのは990年のこと
- 天皇の行幸や寺院の祭礼の際に、獅子舞・狛犬舞が舞われることがあり、これらは彫像としての獅子・狛犬の成立に関係があると思われる。
徒然草の狛犬
今のような形で狛犬に関する記述がはじめて現れるのは鎌倉時代。
兼好法師が「徒然草」236段に描いた京都亀岡の出雲大神宮だ。
古典の教科書にも収録される超有名な部分で、
丹波に出雲といふ所あり。大社を移して、めでたく造れり。しだのなにがしとかや、知る所なれば、秋のころ、聖海上人、そのほかも、人あまた誘ひて「いざたまへ、出雲拝みに。かいもちひ召させん。」とて、具しもていきたるに、おのおの拝みて、ゆゆしく信おこしたり。
御前なる獅子・狛犬、背きて、後ろさまに立ちたりければ、上人いみじく感じて、「あなめでたや。この獅子の立ちやう、いとめづらし。 深き故あらん。」と涙ぐみて、「いかに殿ばら、殊勝のことは御覧じとがめずや。むげなり。」と言へば、おのおの怪しみて、「まことに他に異なりけり。都のつとに語らん。」 など言ふに、上人なほゆかしがりて、おとなしく物知りぬべき顔したる神官を呼びて、「この御社の獅子の立てられやう、定めてならひあることにはべらん。ちと承らばや。」と言はれければ、 「そのことに候ふ。さがなきわらはべどものつかまつりける、奇怪に候ふことなり。」とて、さし寄りて、据ゑ直して去にければ、上人の感涙いたづらになりにけり。
出雲大神宮へやってきた聖海上人。
本殿前の獅子と狛犬が後ろ向きだったので、その珍しさに感動する。
深い意味があるのだろうと神官に尋ねたところ、子供のイタズラだったという話。
日光東照宮の狛犬
そういえば私も最近、日光東照宮で変な狛犬に出会った。
接着面がなく大きな石から掘り出した名品らしいけど、
陽明門の手前の柱にオシッコかけているみたいに見えてしまった。。。
徳川家光が狛犬のできばえを褒めたところ、
狛犬が「恐悦至極に存じます」とペコリでお辞儀をした姿とも称され、
「恐悦跳び越えの獅子」なんて呼ばれ方もされているのだとか。
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