数年前に話題になった柄谷行人「世界史の構造」。
文庫版が出ていたので先週末に読んでみた。
言葉遣いが難解なため、投資家として必要な部分だけ解読。
著者は産業資本主義の成長の前提条件が3つあると説く(P456)。
- 産業的体制の外に「自然」が無尽蔵にあること
- 資本制経済の外に「人間的自然」が無尽蔵にあること
- 技術革新が無限に進むこと
言葉が難しいので翻訳・補足していくと、
1番目は天然資源の枯渇や自然環境の破壊につながる話。
2番目の「人間的自然」とは「安価な労働力」のこと。
ソビエト崩壊後に旧社会主義圏の労働者を飲み込み、
現代は中国やインドの労働力が経済成長の原動力になっている。
3番目の技術革新がなぜ必要かというと、
- 労働者が製品を作り、給料をもらう時点
- 労働者が消費者として製品を購入する時点
この2つの時間差に効率化や技術革新を進めることによって、
労働者の給料以上の価値を生んで儲けるため、と著者は説く。
1番目、2番目はたしかに無尽蔵にあるとは言えない。
そして本書では明確な根拠は示されないが技術革新も頂点とし、
グローバルな資本の自己増殖の仕組みがまもなく崩壊すると指摘。
もし以上の話をすべて受け入れるのなら、
インデックスへの長期の積立投資などの戦略は見直しが必要だろう。
市場全体を買う長期投資の根幹は資本主義の未来を信じることだから。
違う視点からも考えておこう。
この手の現在の仕組みが未来も続くか?と考える際、
- 成長の限界など「地球の有限性」からの視点
- 創造力・技術革新など「人類の可能性」からの視点
という大きく分けて2つがある。
上記の話は前者の視点になるが、後者の視点で考え直せば、
技術革新によって環境・エネルギー問題を解決し、
さらには人工知能による安価な労働力の確保も可能だろう。
ただ本書の中でふと気になった一節がある。
「資本の自己増殖は、資本が労働者を雇用し生産させた物を労働者自身に買わせることによってもたらされる。」P301
生産活動を人間ではなく人工知能を搭載したロボットが担当したら?
すでに雇用が回復しないまま景気が回復するという現象も見られるが…
- 雇用を伴わない景気回復の原因/タイラー・コーエン「大格差」(14/10/04)
資本主義の未来への影響は分からない。
だが収入を「給与」のみに頼る生き方はリスクが高くなっていくのだろう。
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